前回は、企業の利益を最大限にするために必要な「戦略意思決定」の考え方について説明しました。今回は、戦略意思決定におけるCFOの役割について見ていきます。

数年後のB/S、P/Lをシュミレーションできるか?

それでは戦略意思決定に必要な管理会計とはどんなものなのか。事業部門ごとに貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を作ることは、その有効な方法論のひとつである。


その事業部門が使用している資産をB/Sの左側に置き、その資産を調達した原資は借金だったのか、それとも自己資本だったのかで、右側の構成が変わる。その事業が生み出しているキャッシュフローは、借金を返済した上でもなおプラスになっているのか。これまでに投じてきた人件費や、設備投資額は合理的だったのか。


投じた経営資源に見合う成果を出せていないのであれば、その原因は何なのかを分析する。
市場の縮小や、競合の進出などが原因である場合もあるし、自社が投じている人材や人員数の不適合が原因である場合もある。

 

過去の実績は課題、問題点を浮かび上がらせ、これからなすべきことが何であるかを導き出してくれる。生み出しているキャッシュフローでは借金を返済できていないのだとしたら、他の部門があげた収益から借金は返済されていることになる。


その事業部門が自力でキャッシュフローをプラスにするには、コストをカットすれば済む話なのか、それとも抜本的に売上の引き上げが必要なのか。そのためには何をすべきなのか。
投資はメンテナンスコスト程度でいいのか、それともある程度の規模の投資をすれば追加のキャッシュフロー創出が可能なのか。


さらなる設備投資をし、必要な人材を投下するのに資金が必要ならその調達計画も立てる。逆に先細りが不可避なのであれば、どんなペース、手順で縮小していくのか。そして施策を講じた結果、B/S、P/Lが何年後にどうなるのか、そこまでのシミュレーションを立てることができる。CFOと、単なる経理部長との違いはそこにある。

ROEの目標値は帰納的・演繹的アプローチの両面で見る

目標とするROEを事業部ごとに設けるのも効果的な手法である。ROEには業界ごとの常識的な水準があり、類似した事業を営む他社の事例をサンプリングし、そこから目標値を導き出す帰納的アプローチと、ROEを3要素に分解し、当期純利益率、総資産回転率、財務レバレッジについて、各々業界の常識的な水準をあてはめてかけ算をし、目標値を導き出す演繹的アプローチの両面から設定してみる。


その結果、上場企業としての最低ラインである5%には達しない事業があり、他の事業と総合すれば全社で5%以上にできる場合、その事業を会社としてどうしていくのかの経営判断が必要になる。合理的な数字で積み上げた、5年、10年先までのシミュレーションであっても、会社、事業を取り巻く環境は刻々と変わるから、定期的にシミュレーションを見直して行く必要があることは言うまでもない。


そのシミュレーションも、標準的なベースケース、ベストな展開を想定したマネジメントケース、そして最悪の展開を想定したリスクケースの3つのケースで行ない、資金計画はリスクケースを想定して立てる。こうして積み上げた合理的なシミュレーションを、全社が実行に向けての強固な意志を共有できる、戦略意思決定に役立てる。それが戦略意思決定におけるCFOの役割である。

本連載は、2010年3月1日刊行の書籍『CFO経営 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

CFO経営

CFO経営

佐藤 英志,須原 伸太郎

幻冬舎メディアコンサルティング

上場企業を取り巻く環境は、この30~40年の間に激変しました。カリスマ社長の「勘」だけでモノが売れたのは、昔の話。経営が複雑化した時代に企業に求められるのは、財務の専門家の視点を持った経営です。本書では、なぜCFOが…

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