魔法少女の世界は、働く女性たちの心象風景の写し
ここからようやく、オレ自身のターンだ。
パソコンを開いて、録画しておいた深夜アニメを視聴する。観終わったところで、SNSを開いて、みんなの感想をチェックする。今期のオレのいちおしアニメは『魔法少女マジョカナ』だ。
「魔法少女」というと、一般人はすぐに、ロリコンだなんだと騒ぐかもしれないが、そういうものではない。60年代の『魔法使いサリー』や『ひみつのアッコちゃん』から始まって、魔法少女ものは、男性の性的視線にさらされる少女というよりも、女性の自己実現を描いてきた。観ている人も女性だし、女性のためのヒロインものなのだ。
特に『美少女戦士セーラームーン』や『ふたりはプリキュア』といった作品は、従来であれば男性ヒーローの独どく擅せん場だった勧善懲悪のバトルを、女性ヒロインのものにしてしまった。魔法少女の世界では、男性は戦わず、戦う少女たちを癒す存在だ。それは90年代以降の働く女性たちの心象風景の写しでもある。
「お休みなさい、明日もよいドリームに…」
そんな論考をネットに書き込んだのは『魔法少女マジョカナ』の主人公、マジョカナの設定が、従来の基準からすると、明らかに一線を越えていたからだ。マジョカナは単なる少女ではなく、不老不死を約束された吸血一族の少女だった。その年齢は、およそ1万歳―中世には、娼婦だったこともあるし、文字どおり魔女だったこともある。
マジョカナは、酸いも甘いも噛みわける大人の女性であるにもかかわらず、魔法を使って敵を倒すたびにそれまでの記憶を失うという特性もあって、処女の無垢さも備えていた。深夜という枠を活かして、魔法少女ものを逸脱した大人のアニメ―それがオレの『魔法少女マジョカナ』評だった。
ひととおりネットをチェックして、おれはため息をついた。明日も仕事だ。もう寝なければ。
オレは、パソコンを閉じて、ベッドサイドに飾ったマジョカナのフィギュアに目をやった。今思えば、マジョカナの顔は、元カノの綾乃に似ている。オレの好みのタイプということだろうか。
「お休みなさい、明日もよいドリームに、めくるめくるくる、くるりんぱー!」
オレは何気なく呟いた。
一応言っておくと、今のはマジョカナの呪文であって、オレが創作したわけじゃない。