前回は、日本におけるAIの「金融不正検知」技術について取り上げました。今回は、「マネーロンダリング」に対する米国当局の近年の動向を見ていきます。

重要視される、反社会組織のマネーロンダリング対策

21世紀になって国際的なテロ事件が頻発していることを背景として、反社会組織のマネーロンダリング対策が重要視されるようになり、マネーロンダリング対策(アンチマネーロンダリング、AML)を怠っている企業に対する当局の制裁が厳しくなっています。

 

2017年7月、イギリスのHSBC(香港上海銀行)は疑わしい取引についてメキシコ現地法人による報告が遅延したという理由で、メキシコ監督局に制裁金2750万ドルを支払いました。

 

また同年12月にはアメリカ当局にも19億ドルを支払っています。これは罰金としては過去最高額です。

 

SCB(スタンダード・チャータード銀行)は2012年に、10年近くの間、6万件に上るイランへの送金取引を隠蔽していたことをニューヨーク州金融サービス局に発表され、営業免許失効の危機に陥りました。この発表によりSCBの株価は暴落し、時価総額の4分の1を失いました。

 

SCBは和解金として3億4000万ドルを支払い、マネーロンダリング監視体制を強化することで免許剥奪を免れ、さらに12月に追加で3億2700万ドルの罰金を支払うことで連邦当局と同意しました。

富裕層の税金逃れの手段としても問題に

BNPパリバ銀行は、2004年から2012年にかけて、米国国際緊急経済権限法および対敵通商法に違反すると知りながら、制裁対象国の顧客との間でドル送金を実施し、取引相手国情報を書類から削除する隠蔽工作を行ってきました。

 

経営幹部も黙認していましたが、2009年に匿名の告発があり、米国当局は捜査実施を通告しました。ところが調査に対して非協力的だったり、違法行為停止への対処が不適切だったりしたため、制裁金として史上最高額となる89億7000万ドルを課され、幹部13名の解雇と2015年から1年間のドル決済業務縮小などに応じて、ようやく銀行免許剥奪を免れました。

 

また最近では「パナマ文書」問題をきっかけに、富裕層の税金逃れのためのマネーロンダリングも問題になっています。この件でもHSBCは、スイスの子会社が世界200国以上の富裕層の脱税行為に加担していた疑惑が暴露され、スイス捜査当局が捜査に乗り出しましたが、和解金4500万ドルの支払いで、捜査は打ち切りとなりました。

本連載は、2017年12月18日刊行の書籍『AI化する銀行』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

AI化する銀行

AI化する銀行

長谷川 貴博

幻冬舎メディアコンサルティング

AIの導入によって日本の銀行が、そして銀行員の働き方が劇的に変化します。単純作業は真っ先にAIに切り替わり、早いスピードと高い精度で大量の業務がさばかれていきます。さらに、属人的な業務でさえも、AIが膨大なデータから…

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