「会社」は典型的な経済システム
まずは多くの方に最も馴染みが深く、既存の資本主義経済とも密接に関わっているものとして「会社」があげられます。
会社は多くの個人で構成される集合体で、個人が力をあわせて1つの目標に向かって動き、賃金を受け取っています。「給与」というわかりやすい報酬が用意された典型的な経済システムです。
かつて会社は効率的な生産活動をするためだけに作られた存在でした。それ以上でもそれ以下でもありませんでした。
しかし、資本主義社会が発達する中で、会社は生産活動以上の社会的な役割を担うようになってきていますし、そこで働く人々も会社に単なる給与をもらう以上のやりがいや安定性などを求めるようになりました。
今後の会社はいかに人々が気持ちよく進んでやる気を持って働ける「環境」を用意できるか、言い換えれば「仕組み」を設計できるかが重要になってきます。
前述した経済システムの要素を取り入れてみましょう。
①明確な報酬が用意されているか
もともと会社は労働に対する対価として給与が用意されているので、最低限の報酬設計は初めからできています。
しかし、現代ではお金以外の欲求が高まっています。自分がその会社で働いていることで社会的な承認が得られるか、若年層であれば異性からの評判が良いかなども重要になります。
それは、社外だけでなく社内においても同様です。会社内で同僚や上長に認められているか、評価されているか、その精神的な報酬が与えられているかという設計も非常に重要です。
そして、②市場が成長しており変化が激しく、予測できないようなことが日々起こるような職場環境。自分の努力や判断で結果に大きな差が出るような環境では、緊張感と刺激を感じて動く人が増えるでしょう。また③不確実性が強いということで会社は活気づきます。投資銀行やメディア、IT業界などは変化が激しく予測が難しいため、何もしなくてもこのような環境が作られています。
④ヒエラルキーも同様です。努力してもしなくても給与や待遇に差が出ない場合は当然ながら頑張って働こうとする人はいません。
成果に応じた給与や等級はこの「ヒエラルキーの可視化」の役割を持っています。よく営業や売上などの数字が強い会社のオフィスの壁には、目標数値との差や、競合との比較や、個人ごとの成績などが全員に対して可視化されて、毎日(場合によってはリアルタイムで)更新されていることがあります。これは地味に見えて非常に効果的で、コミュニティの全員が比較できる明確な数値によるヒエラルキーを意識することで、個々人が積極的に動いていこうとする動機付けになります。
そして、⑤コミュニケーションですが、これは人事部門などがよく注力する領域です。
部門の飲み会やら会社の総会やらで、参加が面倒だと考えている人も多いでしょう。
ただ、実は組織としてはこういった交流の場が重要で、業務とは関係ない話でもしてメンバーが仲良くなっていると、いざ仕事でトラブルがあったり悩んでいる時にも気軽に声をかけることができて、互いに協力しあうこともできます。
会社で働くメンバー同士の交流の機会が増えるほど企業としての一体感は高まります。
私も経営をしていると、一見意味のない時間を一緒に過ごした人ほど、その後に深い関係性を築きやすい、ということに気づかされます。
会社における共同幻想=「ビジョン」「経営理念」
プラスアルファの要素として、共同幻想をあげましたが、これは会社に当てはめるとビジョンや経営理念に当たります。会社の理念には正解はもちろんありません。
その会社が何を信じたいか、何を正しいと思っているかの宣言がビジョンや理念です。
そこで働くメンバーが同じ理念を信じている場合には会社は一体感を持って動くことができ、多少のトラブルがあっても互いに理解しあうことができるため、その会社がバラバラになる可能性は著しく低くなります。
そして、これは会社のメンバーに限らず、社外の取引先や消費者も同様で、その会社の理念に共感したり同じものを信じている場合には、多少の問題があっても協力してくれたり、支えてくれたりする可能性が高いです。
読者の方が魅力的だと思う企業を思い浮かべてみても、おそらく紹介したような要素の多くを兼ね備えている会社が多いはずです。
世界的に見ても、ディズニー、コカ・コーラ、グーグル、アップルなど、いずれも働く人たちに高い水準での金銭的報酬と社会的報酬を与えて、激しく変化を繰り返し、数字や役職などの秩序を可視化し、明確な理念をメンバーへ浸透させることに多大な労力を割いています。
つまり、今の時代の経営者には、意識的にせよ、無意識的にせよ、この5つの要素を理解し、よくできた「経済システム」を作るプロであることが求められています。