人々の欲望は、物質的なものから精神的なものへ
では、企業ではなく、サービスではどうでしょうか?
先進国では、ものやサービスが溢れています。
衣食住の基本的な欲求は満たされていてものが売れない時代と言われています。人々の欲望は、物質的なものではなく精神的なものに移ってきています。
そんな状況で、ユーザーに熱中して利用してもらえるような商品やサービスを作るには、ユーザーの欲望と向きあう必要があります。そして製品やサービスを作る人は、その製品を軸に作れる経済圏の設計を考えておく必要があります。
衣食住などの根源的な欲望を満たすためのサービスであることはもちろん、それに加えて社会的な欲望を満たす要素を入れるだけでもユーザーの反応は全く変わってきます。社会的な欲望とは、金銭欲求・承認欲求などが典型です。
承認欲求を満たす装置・・・SNSの「いいね」「RT」
フェイスブックやツイッターやインスタグラムなどのSNSは、直接的にお金のやりとりをするサービスではないのでわかりにくいですが、非常によくできた経済システムと言えます。
「いいね」や「RT」はSNSという経済の中では「金銭」ではなく「承認」という欲求を満たすための装置であり、ユーザー間でやりとりされる「通貨」のような役割を担っています。拡散によって増えていくフォロワーは、貯金のように貯まっていく「資産」に近いです。
SNSのタイムラインはリアルタイムで内容が変化し、見る度に新しい情報が飛び込んできます。また、自分の投稿次第で何が起こるかは予測が難しいという不確実性があり、批判を浴びたり炎上したりという「リスク」もあります。
「いいね数」「フォロワー数」「視聴者数」など、様々な指標が数字で可視化され他人と比較することができ、業界や趣味ごとのヒエラルキーも明確になっています。もちろん、いつでもユーザー同士が相談しあったり議論したりすることができます。SNSは先ほど紹介した経済システムに必要な5要素を完璧に押さえています。
おそらく、フェイスブックやツイッターなどは、こういった欲望の構造を理解して作ったわけではないはずです。
実際にフェイスブックは最初は自分のプロフィールを載せるだけの大学生向けの自己紹介サイトに過ぎませんでした。ザッカーバーグや経営メンバーがすごいなと思うのは、人々が何を欲しているか、そしてどんな欲望を持っているかを、表面的なユーザーの声や世の中の偏見に惑わされず、データを見ながら探り続けたことです。
ユーザーの反応を見ながら新しい機能をスピーディーに追加していき、反応が悪かったらすぐに機能を消していくというアップデートを繰り返していきました。
その中でタイムラインという機能や、「いいね!」やシェアなどの機能、チャット機能など、ユーザーが自分でも知らない欲望を理解していったのでしょう。
「写真共有」はSNSのキラーアプリ
フェイスブックが大きくユーザー数を伸ばしたキラーアプリケーションに「写真」があったそうです。タイムラインに写真を投稿した時のユーザーの反応はテキストの場合とは全く異なっていたそうです。
2012年にフェイスブックは「社員13人で売上がほぼゼロ」の写真共有アプリ「インスタグラム」を800億円で買収します。金融的な考え方からすると、この買収はあまりにも高すぎるように見えますが、写真がSNSにおけるキラーアプリだと過去の経験から理解していたザッカーバーグだからこそ、このリスクを取ることができました。
2017年現在、インスタグラムは月間利用者数8億人を超えて、ツイッターを上回る規模の世界的なソーシャルメディアに成長しました。その企業価値は6兆円以上と言われています。
まずヒットするサービスを考える場合は、衣食住などの生理的欲求以外の社会的欲求を刺激できる仕組みを導入できないかを考えてみることが重要です。
またサービスがリアルタイムとは言わずとも、毎日・毎週・毎月変化する企画があることで、ユーザーは常にそのサービスのことが気になってくるようになり、何度も訪れてくれる可能性が高まります。
また、そのサービスを利用している人同士がコミュニケーションを取れる場所やら空間やらの機能を用意してあげるとベターです。Webサービスであればグループやチャットやコメントなどの機能がありますし、リアルのサービスであれば感謝祭やイベントのような場になります。
さらにそこで特にサービスの発展に貢献してくれたユーザーに対しては、他の人とは区別して「特別待遇」をし、それがユーザーの間で可視化されていることが必須です。
ロイヤルティを持って使ってくれた人が、そうではないライトユーザーと同じ扱いをされたら、彼らのサービスに対する熱も冷めてしまうことでしょう。
そして、貢献度に応じて受けられる優待や割引などを用意しヒエラルキーを作ります。Webサービスであれば、「ランキング」のような機能ですし、リアルのサービスであれば「ゴールド会員」などの仕組みです。
こうしてサービスを軸にして、それを使ってくれるユーザーを母集団にして1つの経済システムを形成し、サービスが成長することでユーザーも得をし、ユーザーが得をすることでサービスも成長するという「利害の重ねあわせ」を丁寧にやっていき、共生関係を作り出していきます。
これによってサービスの差別化が難しくなったとしても、サービスを軸に形成された経済圏が競争優位性となり成長を続けることができるようになります。
今後、情報伝達がここまで速くなった世界では模倣は簡単です。目新しいと思われたアイディアも一瞬でコピーされます。ただ、強いロイヤルティカスタマーに支えられた経済システムは一朝一夕でコピーできるものではありませんし、コピーしたとしても同じものを作ることはできません。
製品やアイディアで勝負する時代から、ユーザーや顧客も巻き込んだ経済システム全体で競争する時代に変わってきています。