「経済」と「自然」の根底にある同一システムとは?

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「経済」と「自然」の根底にある同一システムとは?

今回は、「経済」と「自然」の根底にある同一システムについて見ていきます。※本連載では、佐藤航陽氏の著書『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』から一部を抜粋し、「お金や経済とは何なのか?」、その正体を探っていきます。

「資本主義」がこれほどまでに広く普及した理由

経済という大きな枠組みを私たちの脳との関係で語ってきましたが、今度は反対に、経済をさらにより大きな枠組みと比べてみたいと思います。

 

経済というもののメカニズムを研究していく中で、経済と最もよく似ていると思ったのが「自然界」でした。

 

自然界も私たちが生きている社会の資本主義経済も同じように残酷な世界です。自然界で弱っている生物が一瞬で餌となるのと同様に、資本主義経済も競争力のない個人や企業はすぐに淘汰されてしまいます。

 

自然界は、ご存知の通り、食物連鎖と淘汰を繰り返しながら全体が1つの「秩序」を形成して成り立っています。そこには、もちろん「通貨」なんてありませんが、食物連鎖(食べる─食べられるの関係)を通して「エネルギー」を循環させています。

 

個と、種と、環境が、信じられないほどバランスの取れた生態系を作っており、しかも常に最適になるように自動調整がなされています

 

自然界では人間社会にあるような法律を、誰かが作っているわけではないので、自発的にこの仕組みが形成されたということになります。

 

この、経済と自然の比較をしている時に、自分は大きな勘違いをしていることに気づきました。

 

「自然が経済に似ている」のではなく、「経済が自然に似ていたからこそ、資本主義がここまで広く普及した」のだということです。歴史から考えても主従が真逆なのです。

 

こう考えると、自分が感じていた未来の方向性を決める3つのベクトルの中で、「経済」が最も力が強いと感じていたことに妙に納得ができました。

 

つまり、経済のベクトルは「自然にもともと内在していた力」が形を変えて表に出てきたものであり、自然とは経済の「大先輩」みたいな存在、ということになります。

 

経済が自然を模した仕組みでありその一部であると捉えた時、自然の構造をより深く考察してみたくなりました。

 

自然がここまでバランスよく成り立っている要因としては、前述の「極端な偏り」「不安定性・不確実性」というネットワークの性質に加えて、さらに3つの特徴があげられます。

 

①自発的な秩序の形成

まず1つ目が、ルールを作っている人がいないにもかかわらず、簡単な要素から複雑な秩序が自発的に形成されているという特徴です。

 

水は特定の条件下に置くと六角形の結晶を形作ります。誰かがルールを決めているわけでもないのに、勝手にこうした秩序が形成される現象は「自己組織化」もしくは「自発的秩序形成」と呼ばれます

 

②エネルギーの循環構造

次に、エネルギーの循環、代謝の機能です。

 

自然界で暮らす生物は食物連鎖を通してエネルギーを循環させ続けています。

 

生物は食事などによって、常に外部からのエネルギーを体内に取り入れ、活動や排泄を通して外部に吐き出します。

 

熱力学の世界では時間が経つと秩序のある状態から無秩序な状態に発展していくとされていますが、自然や生命はこのエネルギーの循環の機能があるため秩序を維持することが可能だと言われています

 

たとえるなら、流れの激しい川の中で、水車が回転しながら流されずにその場所に留まり続けることができることに似ています。

 

③情報による秩序の強化

最後に、右記の秩序をより強固にするために「情報」が必要になったと考えられます。

 

もし、この世界が完全に決定論的な規則で成り立っていたり、反対に完全にランダムの世界だったとしたら「情報」の必要性はありません。「情報」が必要になるのは「選択」の可能性がある場合だけです。

 

つまり、生命が「情報」を体内に記録し始めたのは選択の必要性がある環境だったからと考えられます。「情報」が内部に保存されることで、構成要素が入れ替わっても同じ存在であり続けることができるのです。

 

私たちも新陳代謝によって毎日細胞を入れ替えていますが、内部に保存された記憶や遺伝子などの様々な情報のおかげで同じ人間として活動を続けることができています。

 

[図表]有機的なシステムの3要素

 

以上の3つの性質を簡単にまとめると、「絶えずエネルギーが流れるような環境にあり、相互作用を持つ動的なネットワークは、代謝をしながら自動的に秩序を形成して、情報を内部に記憶することでその秩序をより強固なものにする」となります(長い!)。

 

この自然に内在している構造を、物理学者プリゴジンは「散逸構造(dissipative structure)」、生物学者バレーラらは「autopoiesis」、経済学者ハイエクは「自生的秩序(spontaneous order)」と呼び、みんな近い構造を指摘していました(プリゴジンとハイエクはノーベル賞を受賞しました)。

 

その他にも色々な呼び名がありますが、言っていることはだいたいこの3つに集約されます。

 

思い出してみると、老練な経営者や歴史的な偉人の名言でも同じような内容が語られていたりしますし、「諸行無常」「生々流転」なんて言葉もずっと大昔からあります。

企業の存在を定義する「ビジョン」「理念」の重要性

昔、起業したての頃によく先輩の経営者に「ビジョンや理念が重要だ」と言われることが多かったのですが、当時はその意味がよくわかりませんでした。

 

社員が数十人のベンチャー企業にとっては来月の会社の存続のほうがはるかに重要であり、自社の方向性や存在意義を言葉として定義するのは後回しになりがちです。

 

ただ、実際に会社が数百人規模になってくると、自分たちの存在を「情報」として定義する、つまり「ビジョン」や「理念」を策定する重要性が身に染みて理解できるようになりました

 

ギリシャ神話に「テセウスの船」という有名な話があります。ボロボロになった船を修理するためにパーツを取り替えていき、最後には、全ての部品を取り替えてしまいました。その船は元の船と同じ存在と言えるのか? という疑問を投げかけた話です。

 

企業も小さいうちはただの個人の集まりに過ぎないのですが、100人以上の組織になってくると自分たちの存在を定義する「情報」が言語として共有されていることが重要になってきます。

 

時間の経過によって、新人が入ったり事業が変わったりは頻繁に起きますが、組織の存在を定義する情報(ビジョン・理念)が可視化されていることによって、同一性を保ち続けることができるからです。

 

先人の知恵は正しかったんだなぁ、と改めて実感できた体験でした。

お金2.0 新しい経済のルールと生き方

お金2.0 新しい経済のルールと生き方

佐藤 航陽

幻冬舎

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