極めて秀逸なビットコインの「報酬設計」

今回は、ビットコインの市場を支える「報酬設計」について解説します。※本連載では、佐藤航陽氏の著書『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』から一部を抜粋し、「お金や経済とは何なのか?」、その正体を探っていきます。

「経済・テクノロジー・思想」に役割を与え、報酬を設計

これらの要素をうまく取り入れている典型的な例にビットコインがあります。

 

ビットコインはそのリバタリアン的な思想や、そこで使われているブロックチェーンなどの技術面が注目されがちですが、私はビットコインの報酬設計の秀逸さに驚きました

 

ハイエクやゲゼルなどの同様の思想は、昔から存在していましたし、分野は違えどP2Pや暗号技術もそれぞれは新しいものではありません。

 

かつて、フリードリヒ・ハイエクという学者は「貨幣発行自由化論」を発表し、国家が中央銀行を経由して通貨をコントロールすることは実体経済に悪影響を及ぼすとし、通貨の国営化をやめるべきだと主張しました。現代では考えられないことですが、当時は国家が通貨をコントロールすることは常識ではなかったことがわかります。

 

ハイエクは、市場原理によって競争にさらされることで健全で安定した通貨が発展すると考えていました。経済学が好きな人にとっては、ビットコインはこのハイエクの思想を体現した仕組みのように映っているはずです。

 

ハイエクはオーストリア・ウィーン生まれの学者で、経済学・政治学・哲学など幅広い学問に精通した多才な人物で、ノーベル経済学賞も受賞しています。また、ハイエクは全体主義や計画経済などのように、国家が経済や社会をうまく計画してコントロールできると考えるのは人間の傲慢に過ぎないと主張し、自由主義を支持していました。

 

また、ドイツ人経済学者のシルビオ・ゲゼルは、『自然的経済秩序』という著書の中で、自然界のあらゆるものが時間の経過と共に価値が減っていくのに、通貨のみは価値が減らないどころか金利によって増えていくことを指摘し、それは欠陥だと主張しました。それを解決するアイディアとして、価値が時間と共に減る自由貨幣(スタンプ貨幣)を考え出しました。

 

これは一定期間に紙幣に一定額のスタンプを貼らないと紙幣が使えなくなる仕組みで、まさに利子と真逆の概念を取り入れています。これによって通貨が滞留してしまうことを防ぎ、経済の新陳代謝を強制的に促すことも可能になります。これはアプローチは違えど、ピケティが提案した資産を所有すること自体に税金をかけるべきといった資産税に近い概念です。

 

ただビットコインが他の学術的な思想とも、ただの新技術とも違うのは、この経済システムに参加する人々が何をすれば、どういった利益が得られるか、という報酬が明確に設計されている点です

 

マイナーや投資家(投機家)などを〝利益〟によって呼び込み、ブロックチェーンなどの〝テクノロジー〟で技術者の興味を引き、その〝リバタリアン的な思想〟によって社会を巻き込んで、システム全体を強固なものにしています。

 

インセンティブを強調しすぎて崩壊していく金融市場や、誰得なのか不明なままの新技術。理論的な美しさを重視して最初から実現する気のない思想論文。こういったものは世の中に出ては消えていく時代の消耗品です。

 

しかし、ビットコインは経済・テクノロジー・思想とそれぞれが、それぞれの役割を与えられた上で、うまく報酬の設計がなされています

 

さらにオープンソースにすることで、もしビットコインがダメになってもアルトコインを始めとした別の選択肢へ参加者が移動しやすくなっています。

 

結果、参加ハードルを下げてリスクを分散し、仮想通貨全体で安定的な市場を形成しつつあります。

 

私はこれを見た時に、ビットコインの発案者は「理想主義者」ではなく、あくまで動くものを作りたい「現実主義者」だと感じました

 

普及させるための手段として技術やら思想やら報酬設計やらを有効に使い、自分の手で新たなシステムを作って広めることのほうを重視していると(まるでプロダクトを作るエンジニアのように)。

 

小綺麗な思想論文にはない現実主義者の「強(したたか)さ」のようなものを感じて、あまりによくできていたので私は思わず嫉妬を覚えてしまうほどでした。

 

複雑化した世界では、従来の経済システムは成立しない

強固な経済システムを作る上で必要な5つの要素(追加2つ)を紹介しましたが、どうしても抽象的な話になってしまっていたので、ここからはみなさんの身の回りにあるものに当てはめて具体例をあげながら紹介していこうと思います。

 

これは会社に当てはめれば「組織マネジメント論」となりますし、サービスに当てはめれば「プラットフォーム戦略」や「コミュニティ戦略」になります。

 

いずれも名前が違うだけで原理は一緒なので、学問的な区別に惑わされずに、根底にある普遍的なメカニズムを手触り感を持って理解することが大事です。

 

従来は、会社や製品を作る上で、こうした経済の考え方を取り入れる必要はなかったと思います。それぞれが明確な目的と需要によって成り立っていたので、複雑な経済のメカニズムなどを取り入れなくても十分に機能しました。

 

しかし、IT化やグローバル化の流れで世界はどんどん複雑化が進み、資本主義の発達によって全体が裕福になると、単純な需要を満たすだけでは供給過多に陥り、経済システムは成り立たなくなっていきます

株式会社メタップス 代表取締役社長

福島県生まれ。早稲田大学在学中の2007年に株式会社メタップスを設立し代表取締役に就任。2015年に東証マザーズに上場。フォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、30歳未満のアジアを代表する30人「30 Under 30 Asia」などに選出。2017年には時間を売買する「タイムバンク」のサービスの立ち上げに従事。宇宙産業への投資を目的とした株式会社スペースデータの代表も兼務。

著者紹介

連載お金の正体~書籍『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』より

 

 

お金2.0 新しい経済のルールと生き方

お金2.0 新しい経済のルールと生き方

佐藤 航陽

幻冬舎

「資本主義」を革命的に書き換える「お金2.0」とは何か。2.0のサービスは、概念そのものを作り出そうとするものが多いので、既存の金融知識が豊富な人ほど理解に苦しみます。その典型がビットコインです。あまりにも既存社会の…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧