システムの「寿命」を考慮し、次のシステムを用意する
追加①経済システムの「寿命」を考慮しておく
安定性と持続性を考えると、さらに2つの要素を取り入れる必要があります。まず1つ目は「寿命」です。
不思議に聞こえるかもしれませんが、より「経済システム」を長続きさせたい場合、それ自体の寿命をあらかじめ考慮に入れておくことが重要です。
私たちの身体や車やパソコンと同様に、永遠に機能する完璧な経済システムというものは存在しえない、というのが今のところの持論です。
なぜなら、経済システムは何十年、何百年と運営されることで階層の固定化といった「淀み」の発生を避けられないからです。
経済は人気投票を何百万回と繰り返すようなものなので、時間が経つほど特定の人に利益が集中してしまうのは必然です(フィードバックループの結果)。この作用が格差を生み出します。
長く運営されることで徐々に特定の層に利益が滞留し始めると、当然それ以外の人の間で新しいシステムの誕生を望む声が高まっていきます。
また人間には「飽き」があるので、長く同じ環境にいると不満がなかったとしても、新しい環境を望んでしまう傾向があります。
最初から完璧なシステムを作ろうとせずに、寿命が存在することを前提にし、寿命がきたら別のシステムに参加者が移っていけるような選択肢を複数用意しておくことで、結果的に安定的な経済システムを作ることができるようになります。
例えば、ビジネスで、プラットフォーム戦略を考える時には、この寿命の概念はよく出てきます。
フェイスブックは若者のユーザー離れも想定してワッツアップやインスタグラムも買収しています。
飽きられても他のサービスでユーザーを逃がさないようにしています。
ヤフーや楽天のような大手IT企業も特定のサービスに飽きたら他のサービスに回遊させるような設計がなされています。また、外食チェーンがファミリーレストランから中華料理まで店舗のレパートリーを用意して、お客さんの飽きを想定しながら展開しているのも同様の狙いがあります。
[図表1]
「幻想の共有」がシステムを長続きさせる
追加②「共同幻想」が寿命を長くする
2つ目が「共同幻想」です。永遠に続く完璧な経済システムを作ることはできなくても、できるだけ長持ちさせることはできます。
その時に重要になるのが、参加者全員が同じ思想や価値観を共有していること。
誤解を恐れずに言えば、「参加者が共同の幻想を抱いている場合」、システムの寿命は飛躍的に延びます。
国家であれば倫理や文化、組織やサービスであれば理念や美学みたいなものが該当するでしょう。
経済は参加者全員が利害を重ねる共同体でありながらも、個々は競争をしあうライバルの関係でもあります。当然、中にはズルをする人もいますし、自分勝手な人もいます。放置しておくと「やったもん勝ち」になって秩序は失われていきます。
そのうち不満を抱いている参加者が離脱していき、徐々に離反者が増えていき崩壊に至ります。ただ、この利害が激しくぶつかりあう場合でも、参加者が同じ思想や価値観を共有している場合には、互いに譲歩できる着地点を見つけられる可能性が高くなります。
かつてアップルが倒産の危機に陥った時、アップルに戻ってきたスティーブ・ジョブズはアップルの「ブランド」に再び焦点を絞りました。
当時アップル製品は不具合が多いことで有名でしたが、アップルの思想や美意識に共感した熱烈なファンがいて、欠点があっても使い続けてくれていました。
通常の安売りメーカーであれば、不具合があればユーザーは二度とリピートしてくれませんが、価値観に共感している場合は多少の失敗は許容できます。
これによってアップルは倒産を免れました。このように価値観を共有している場合は多少の軋轢があってもお互いに譲歩しあえるので、結果的に利害のみで繋がったシステムよりはるかに長続きします。
ここで、あえて「幻想」と表現したのは、絶対的な正しい価値観というものは存在せず、時代によって変化する流動的なものだからです。
全員が同じものに価値を感じれば、実際に価値が発生してしまうのです。共同幻想はシステムに対して自己強化をかけます。
[図表2]
コミュニケーションが弾力性のある接着剤だとすれば、世代を超えて引き継がれる共同幻想は、瞬間凍結させる液体窒素のようなものだと言えます。
反対に言えば、「世界を変える」とは、前時代に塗り固められた社会の共同幻想を壊して、そこに新しい幻想を上書きする行為に他なりません。
国家、通貨、宗教、偏差値、学歴、経歴、年収、資産、倫理、権利など、私たちの精神や行動を縛る概念のほぼ全てが人工的に作られた幻想ですが、これらの効力が薄れ、時にはまた別の幻想が誕生し、人々の新たな価値判断の基準になっていきます。