金融概念を崩さず、ITで業務を効率化するFintech1.0
本連載をご覧になっている方でしたら、「Fintech(フィンテック)」という言葉はもう耳にタコができるぐらい何度も聞いていると思います。Fintechとは、financeとtechnologyを組み合わせた造語で、ITなどの新たなテクノロジーの進化によって金融の世界が破壊的に変化するトレンドを指しています。それに付随して、ロボアドバイザー、ビットコイン、ブロックチェーン、クラウドファンディングなど様々なバズワードが溢れています。
ただ、この領域を主事業にしている者として、これは全く違う2つの現象をごっちゃにして語っているように感じています。ここではこの2つの現象を便宜的にFintech1.0とFintech2.0として区別することにします。
①Fintech1.0
Fintech1.0とは、簡単に言えばすでに存在している金融の概念は崩さずに、ITを使ってその業務を限界まで効率化するようなタイプのものです。
決済、投資、融資、保険、会計など、近代にできた枠組みは触らず、スマートフォンやビッグデータなどを用いて既存の業務の無駄を省いたり、新しいマーケティング手法を活用したりするものが中心です。いずれも既存の金融の延長線上にあるもので、金融機関が使うFintechとはほぼこちらの1.0のほうを指しています。特徴としては、既存の金融機関で働いている人がビジネスモデルを聞いてすぐ理解できるものがFintech1.0です。
典型例が、AIを活用して投資を最適化するロボアドバイザー、スマートフォン端末を用いた決済、ネットで多くの人から資金を集めるクラウドファンディング。いずれもすでにある技術を活用して効率化したものなので、聞いただけで何となくイメージできます。
全くのゼロベースから再構築する「Fintech2.0」
②Fintech2.0
2.0は1.0とは全く異なり、近代に作られた金融の枠組み自体を無視して、全くのゼロベースから再構築するタイプのものです。本書のタイトルである「お金2.0」もここから取っています。
2.0のサービスは概念そのものを作り出そうとするものが多いので、既存の金融の知識が豊富な人ほど理解に苦しみます。通貨、決済、投資、融資などすでにある枠組みに当てはめて判断することが非常に難しいため、そのサービスや概念を見た時にそれが何なのかを一言で表現することができません。
その典型がビットコインです。仮想「通貨」と表現されていますが、世間一般で言う通貨の定義には当てはまりません。まず円やドルのように国が発行するわけでもなければ、楽天のように管理者がいるわけでもありません。にもかかわらず仕組みとしては成り立ってしまっています。通常の金融の知識だけでなく、ゲーム理論、暗号理論、P2Pネットワークなど学術的な話もかじっていないと完璧には理解できません。
そして、本連載で扱うのはもちろんこの2.0のほうです。2.0は抜本的にこれまでの社会基盤を作り変えてしまうポテンシャルがあります。ただ、2.0はあまりにも既存社会の常識とは違うので今の経済のメインストリームにいる人たちにとっては懐疑や不安の対象になりやすいといった特徴もあります。そして、それこそが全く新しいパラダイムであることの証でもあります。
本連載ではまずお金や経済の仕組みから、テクノロジーによる経済の変化の流れ、最後に私たちの生活の変化の順番に紹介していきます。