今回は、「物流マーケット」の動向の概要を説明します。※ロサンゼルスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社のシービーアールイー株式会社(CBRE)。本連載では、そのリサーチ部門が世界の不動産市場の最新情報をお伝えします。

eコマース市場の拡大で「LMT」の需要は拡大傾向

eコマース市場の拡大や、省人化投資に伴う大型施設に対するニーズの高まりなどを背景に、大型マルチテナント型物流施設(=Large multi-tenant logistics properties=LMT)に対する需要は今後も拡大を予想。一方で新規供給は、今後2年間は高水準で続く見込み。物件の選択肢が広がる中、立地により評価が大きく分かれる可能性がある。

 

2017年の物流マーケットでは、インターネット通販(eコマース)がさらに浸透したことで宅配便個数が配送の限界に達し、人手不足と労働環境の問題が表面化した。このことが、物流業界の変革を強く促している。今やこの業界は、最も省人化への取り組みが必要とされている。配送センター内のオペレーション自動化設備、いわゆるロボティクスが実用段階に入り、eコマースや大手小売業などの荷主企業で導入実績が増えている。デベロッパーも、自社の施設にテナントを誘致する目的で積極的にロボティクスメーカーと提携を進めている。

 

このような最新のオペレーションを導入する物流拠点は、投資効率を上げるため、より大型化する傾向がある。このような大型化ニーズの高まりを想定して、2017年は首都圏・近畿圏・中部圏で、合計61万坪にのぼる大型マルチテナント型物流施設が供給される見通しである。一方、需要も50万坪以上拡大する見込みのため、2017年Q4時点のLMTの稼動面積は2016年Q4に比べて18%増加し、10年前の2007年Q1の5倍強に達している(図表1参照)。

 

[図表1]稼動床面積

出所:CBRE、2017年11月
出所:CBRE、2017年11月

 

需要の牽引役は、やはりeコマースである。日本のeコマース市場はこの5年間、毎年平均して12%のペースで拡大している。それでも日本のEC化率(小売売上高に占めるeコマースの比率)は2016年時点で5.4%(経済産業省)にとどまっており、米国の8.1%(U.S. Census)に比べるとまだ拡大の余地がある。eコマース成長による商品の物流量増加や物流拠点の追加・再編が今後も期待できるとみて、デベロッパーの開発意欲は2018年以降も依然として高い。

 

このように、eコマース市場の拡大や、省人化投資に伴う大型施設へのニーズの高まりなどを背景に、LMTに対する需要そのものは今後も拡大が予想される。一方で新規供給は、少なくとも今後2年間は高水準で続くことが見込まれる。そのため、エリアによっては供給と需要がマッチせず、稼働率が低下するケースも考えられる。

2019年が首都圏の供給ピーク、空室率は10%を超える

首都圏では、2018年から2019年の2年間で、2017年Q4時点の物流施設ストックの約40%に相当する規模の新規供給が見込まれている。その84%を国道16号と圏央道の外側2エリアが占める。その反面、需要はより内側のエリアに向かいつつある。これは、ラストワンマイルの配送に対応するための需要が高まっていることが背景と考えられる。そのため、今後のリーシング状況はエリアや物件によってますます差が開くこととなろう。首都圏では恐らく2019年が供給のピークとなり、空室率は10%を超える可能性がある。

 

近畿圏では、記録的な大量供給があった2017年に比べれば沈静化するものの、大量供給そのものは2018年以降も続く。その開発立地は、新名神高速道路・高槻ジャンクションー神戸ジャンクション間の開通を見据えて、より郊外へも拡散する。そのため、空室在庫の消化スピードはなかなか上がらず、空室率は2019年へ向けて緩やかに上昇するだろう。

 

一方、中部圏でも2017年に空前の規模の供給があったが、これがむしろ需要を喚起することとなり、複数の大型契約がみられた。今後は郊外や新興立地での開発が増えるため、空室率は上昇すると考えられる。しかし需要も引き続き強いと見込まれるため、実質賃料はほぼ現状の水準を維持する見通しである。

 

[図表2]新規供給と空室率

出所:CBRE、2017年11月
出所:CBRE、2017年11月

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