前回に引き続き、「海外留学を理由とした別居」を、財産分与の基準時としない例を紹介します。今回は、審判内容についてより具体的に分析しましょう。※本連載は、弁護士として活躍する森公任氏、森元みのり氏による編著、『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、財産分与の概要と、分与対象財産の確定方法を説明します。

別居しても、協力関係は直ちに消えるわけではない

前回の続きです。

 

<コメント>

 

1 分与対象財産確定の基準時

現在の裁判所実務では、分与対象財産確定の基準時は、別居時とすることが多い。財産分与は夫婦の協力によって形成された財産を双方で公平に分ける手続であるところ、多くの事例では離婚前に婚姻関係の解消を前提とする別居をしており、その時点で夫婦の協力関係がなくなっていると評価できるから、別居時を基準とするのは一応の合理性がある。

 

しかし、別居したからといって直ちに夫婦の協力関係がなくなったとはいえない場合がある。例えば、海外留学、単身赴任、病気療養のための別居生活や、妻が出産前後に実家に里帰りするために別居する夫婦もいる。このように、夫婦が別居生活をしている場合に、全て一律に協力関係はないとして、当該期間の夫婦財産の増減を財産分与の対象としないのは実態に合わない。

 

そこで、夫婦が「別居」を行う場合に、「別居」が婚姻関係の解消を前提とする別居なのか、あるいは、婚姻関係の解消を前提としない単なる事実上の別居であるのか、その別居以後における夫婦の協力関係の有無について、裁判所は個別に判断をすることになる。

 

具体的には、当該別居期間中に双方の自宅への出入りがあったか、夫婦相互の電話やメールの存在・内容、生活費等の経済的支援の状況などを総合的に考慮した上で、夫婦の協力関係がどの時点でなくなったかを判断することとなる。また、夫婦が別居解消後に再度同居している場合には、その同居中における協力関係も検討対象となる。

留学は「単なる事実上の別居期間」と判断

2 本事例について

相手方は、申立人が海外に留学していた時期以降は夫婦間の協力関係がなかったと主張したが、審判では、当該別居期間及びその後の同居期間中について、具体的に夫婦の共同生活実態を検討した上で、留学は単なる事実上の別居期間と判断し、この期間も財産分与の対象範囲とした。その上で、財産分与の基準時を離婚時と定めた。

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

森 公任,森元 みのり

新日本法規出版

一筋縄ではいかない事件を柔軟に解決するために! ◆財産分与における実例を論点別に分析し、考慮要素や計算方法、解決案などを整理しています。 ◆事例から導かれた、実務上の留意点を「POINT」として掲げることにより、…

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