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違法に権利が侵害されている場合、賠償請求等が可能に
前回の続きです。
2 所有者の権利と限界
（1）空家対策特別措置法による是正措置をとることができない場合
空家対策特別措置法による是正措置をとることができない場合には、隣人は何も請求することができないのでしょうか。
第9回の解説にも記載したとおり、自己の所有物をどのように利用するかは所有者の自由であり、自己所有の建物がゴミ屋敷になっており悪臭が発生していたとしても、それについて直ちに隣人（他人）が法的に何か請求することは困難でしょう。
しかし、他の人と共存しながら社会生活を送っている以上、自己所有の建物であるからといって、他人の迷惑を顧みずに何をしてもよいというわけではありません。他人への迷惑が、社会生活上一般に受忍すべき限度を超えて、他人の権利を違法に侵害している場合には、所有者に対し迷惑行為の差止め（本問ではゴミの撤去）や損害賠償（慰謝料）請求をすることも可能となります。
本問では、悪臭が社会生活上一般に受忍すべき限度を超えて、隣人の健康な生活を営む権利を侵害しているか否かが問題となります。
健康な生活を営む権利は憲法上明文がありませんが、憲法13条では、人が社会生活上有する人格的利益を目的とする権利（人格権）が保障されており、健康な生活を営む権利も同条で保障されていると考えることができます。
（2） 本問の場合
社会生活上一般に受忍すべき限度（受忍限度）を超えているか否かは、一目瞭然にわかるものではなく、その判断は困難です。本問では「強烈な悪臭」とありますが、それでも当然に受忍限度を超えているとは言い切れません。しかし、「強烈な悪臭」で「食事も喉をとおら」ない、「体調を崩し」た程であれば、受忍限度を超えているとして、ゴミの撤去や慰謝料請求が認められる可能性もあります。
現に、下記の参考判例にあげたように、悪臭が受忍限度を超えたとした裁判例もあります。
第三者機関を通じ、所有者と直接交渉する方法も
3 第三者機関の利用
空家対策特別措置法による是正措置をとってもらえない場合、空き家の所有者と直接交渉をして、ゴミを撤去してもらうことが一番早い解決方法だと考えられます。しかし、空き家の所有者がゴミの撤去を拒んだり、話合い自体に応じない可能性もあります。その場合に、もちろん訴訟を提起するという方法がありますが、容易に認められるとは限りません。そこで、簡易裁判所の調停手続や弁護士会の仲裁・あっせん手続を利用するという方法もあります。
調停委員やあっせん・仲裁委員が間に入ってくれることで、解決に至る可能性もありますので、第三者機関を通じて話合いをするという方法を考えてみることもよいでしょう。
参考判例
●京都市内の菓子製造工場の近隣住民等が、本件工場から発生する騒音と悪臭により精神的損害又は財産的損害を受けたとして、損害賠償請求をしたところ、本件工場の発した騒音及び臭気は原告らの受忍限度を超えていたとして損害賠償（慰謝料）が認められた事例（なお、京都市に対しても国家賠償請求をしているが、それは認められていない。）（京都地判平22・9・15判時2100・109）
●複数の猫の糞尿等に起因する悪臭により損害を被ったとして、猫を飼っている家に隣接する土地に居住している住民が、不法行為に基づいて損害賠償請求や人格権に基づいて悪臭発生の差止めを求めたところ、受忍限度を超えているとして、悪臭発生の差止請求を認めた上、損害賠償請求も認めた事例（東京地判平23・7・29（平22（ワ）47109））
