「特定空家等」に該当すれば市町村が対応するケースも
Q:隣の空き家がゴミ屋敷になっていて、生ゴミから悪臭がしています。夏になると強烈な悪臭がするため、食事も喉をとおらず、一日中憂鬱な気分になり、体調を崩してしまうこともあります。空き家のゴミを撤去してもらうように請求するなど、何か対応策はないでしょうか。また、慰謝料の請求はできますか。
A:工場などから発生する悪臭については、悪臭防止法により規制がされる場合がありますが、本問のような空き家からの悪臭については、悪臭防止法で直接規制することは困難です。ただ、平成27年5月26日に全面施行された空家対策特別措置法では、そのガイドラインで、空家等のうち「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」にあるものを「特定空家等」とし、その例示として、ゴミの放置・不法投棄による臭気の発生をあげています。そのため、本問の空き家も「特定空家等」に該当する可能性があり、そうであれば、市町村に一定の対応(撤去などの指導・勧告・命令等)をとってもらうことが可能です。
次に、上記の「特定空家等」に該当しない場合には、自己所有の建物をどのように利用するかは原則として所有者の自由であるため、ゴミ屋敷になっていたとしても、隣人がゴミを撤去するよう法的に請求するのは容易ではありません。ただし、受忍限度を超えて、健康な生活を営む権利(人格権)を違法に侵害しているような場合には、ゴミの撤去を求めたり、損害賠償(慰謝料)請求をすることが可能です。
悪臭防止法は「事業活動に伴って発生した悪臭」が対象
1 公的規制
(1) 悪臭防止法
悪臭に対する法的な規制には、悪臭防止法があります。しかし、悪臭防止法は「工場その他の事業場における事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制」を行っているもので、空き家からの悪臭について規制するものではありません。
(2) 空家対策特別措置法
ア 概要
平成27年5月26日、空家対策特別措置法が全面施行されました。それにより、倒壊の恐れや衛生上問題のある空き家(「特定空家等」)の所有者に対して、市町村が撤去や修繕を勧告・命令できるようになりました。勧告を受けると固定資産税の優遇を受けられなくなりますし、命令に違反した場合は50万円以下の過料に処せられ(空家16①)、行政代執行による強制撤去も可能となりました(空家14⑨)。
イ 「特定空家等」の判断基準
空家対策特別措置法では、「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」に該当する空き家を「特定空家等」の1つの形態としています(空家2②)。そして、国土交通省が定めた市町村向けのガイドラインでは、「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」として、建築物が破損し石綿が飛散する可能性、浄化槽の破損による臭気の発生、ゴミの放置・不法投棄による臭気の発生やネズミ、ハエ、蚊の発生などを例示しています。
ウ 本問の場合
以上からすると、本問の「空き家がゴミ屋敷になっていて、生ゴミから悪臭がしてい」る状態というのは、「ゴミの放置・・・による臭気の発生」している場合ですから、空家対策特別措置法の「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」として、「特定空家等」に該当する可能性が高いといえます。そのため、空家対策特別措置法に基づいて、市町村に、空き家の所有者に対して、撤去等の勧告や命令をしてもらうことが可能と考えられます。
ただ、ガイドラインでは、市町村が「特定空家等」と判断し、是正措置を講じるには、空家対策特別措置法が「特定空家等」に該当する4つの形態(空家2②)の状態にあるだけでなく、周辺に及ぼす悪影響の程度を考慮する必要があるとしています。そして、特定空家等は「将来の蓋然性を含む概念であり、必ずしも定量的な基準により一律に判断することはなじまない」とし、周辺の建築物や通行人等に対し悪影響をもたらすおそれがあるか否か、悪影響の程度と危険等の切迫性を勘案して、「総合的に判断されるべきもの」としている点には注意が必要です。今後、実際の運用がどのようになされるのか、その推移を見守る必要があるでしょう。
この解説は次回に続きます。