「防雪柵の設置」や「屋根の改修」の請求が可能
Q:毎年冬になると、隣の空き家の屋根に積もった雪が私の自宅の庭に落ちてきて困っています。先日の大雪のときには、その空き家の屋根から大量の雪が落ちてきて、私の自宅の庭がほとんど使えなくなってしまいました。雪が落ちてこないようにしてもらえないでしょうか。
また、庭木が折れてしまった場合には、損害賠償請求ができますか。
A:土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けることができません。雪の場合にも同様に考えることができ、被害を受けた土地の所有者は、所有権に基づく妨害予防請求権によって雪が直接すべり落ちないように防雪柵の設置や屋根の改修を請求することができます。緊急を要する場合には、仮処分の申立てもできます。
また、落ちてきた雪によって高価な樹木が折れてしまった等、損害が生じている場合には、損害賠償請求をすることも可能です。
折れた庭木が高価な場合、「交換価値」を査定して請求
解説
1 工作物の設置禁止
土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根その他の工作物を設けることができません(民218)。
民法214条で、土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならないとされていますが、工作物によって雨水が直接注ぐことを受忍する義務まではありません。そのため、屋根その他の工作物の所有者は、雨樋を設置するなどして、雨水を自己所有地若しくは公道へ流下させなくてはならないのです(川島武宜=川井健編『新版注釈民法(7)』348頁(有斐閣、平19))。
工作物所有者が民法218条に違反して雨水を直接隣地へ注いでいる場合には、隣地所有者は所有権に基づく妨害排除請求権によって、差止め(例えば、改善措置を講じること)の請求をすることができます。
雨水に限らず屋根に積もった雪についても同様に考えられるため、空き家の隣地所有者は、空き家の所有者に対し、所有権に基づいて、改善措置を請求することができると考えられます。
なお、請求の趣旨としては、一例として、以下のようなものが考えられます。
被告は、原告に対し、別紙物件目録記載〇〇の土地と同目録記載〇〇の土地との間に別紙添付図面のとおりの防雪柵の設置工事をせよとの裁判を求める。
2 仮処分
訴訟をすると、通常、判決が出るまでに相当な時間を要することになります。そこで、緊急を要する場合には、仮処分の申立てをすることも考えられます。
3 損害賠償請求
本問のように、空き家の屋根から落ちてきた雪によって庭木が折れてしまったのであれば、損害が発生しています。そして、大雪自体は空き家の所有者の責任ではありませんが、民法218条に違反して雪が直接隣地へ落ちていたことで庭木が折れたのであれば、それは受忍限度を超えて損害を被ったと言えるでしょう。そのため、損害賠償請求をすることは可能です。
庭木が高価な場合には、その庭木の交換価値を査定して、損害賠償請求をすることになります。そうでない場合には、慰謝料を請求することが考えられます。
また、除雪をする必要性が認められる場合には、除雪費用を損害賠償として請求することが考えられます。
参考判例
●隣地の占有者に対し、妨害予防として雨樋の設置を命じた事例(佐賀地判昭32・7・29判時123・1)
●別荘の所有者に対し、防雪柵の設置を命じた事例(東京地判平21・11・26(平19(ワ)12891))