「3つの柱」から成り立つLCBの概念
前回の続きです。
そもそもLCBの概念とは、大きく3つの柱から成り立つものです。1つめは「建築物が壊れない」こと、2つめは「ライフラインの自主確保」、そして3つめが「内装材などが壊れない、落下しない」建築とするというものです。以上の3つを確実に実現する事がLCB建築の必達水準であると私たちは考えています。
近年は度重なる震災被害の経験を通して、免震構造の採用や非常電源の容量強化など、建物の機能を維持し安全性を高める対策は当たり前になりつつありますが、建物内の人を守る対策はいまだ不十分であると言わざるを得ません。
LCBの3つめの柱である「建物内において物を落下させない」ことによる内部の人の安全確保を実現してこそ、安全を超えた更なる「安心」を生み出すことに繋がると考えるのです。
通常の建設コストで「LCB建築」の導入が可能
では、包括的なLCB計画を実施した場合、いったい病院はどれほどの費用負担をしなければならないのでしょうか。最先端設備を導入すればコストが跳ね上がるのは自明の理ですが、導入したからといって診療報酬が増えるわけではありませんから、病院としてはできるだけコストを抑えたいのが本音であると推察します。
先に久米設計の病院設計タスクチームは、巨大地震が懸念される地域の病院設計にLCB計画を組み込んでいると述べましたが、だからといって、必要以上のコストが生じることはありません。
LCB建築を構成する様々なアイデアや技術の一つひとつは既存の建築技術やそれらの組み合わせで効果を発揮するものであり、特殊で複雑なものではなく、通常の建築費の3~7%程度の増額で実現可能です。設計当初から増額分を吸収すべくVE(バリューエンジニアリング)やコストの節約を考慮すれば、通常の建設コストでLCB建築の実現は可能なのです。
たとえば大災害時には、多数の傷病者が一斉に病院を訪れ、通常の病室や待合スペースから人があふれるケースが想定されます。将来を見越したマスタープランを策定する設計力がここでも活かされるのです。
[図表]災害時の機能転用の事例
例として、屋外の車寄せ空間はトリアージスペースとして使えます。待合ゾーンやアトリウム、エントランスホールなどに余裕のあるスペース設計がなされていれば、仮設の救護所や負傷者収容スペースを設置することができます。
こうして用途が予測できるスペースに医療ガスアウトレットや非常用電源を設置しておくと、緊急時でも患者さんに必要な医療を提供でき、「避けられた災害死」を防ぐことができます。
上の図表の事例はいずれも新築・建替え時のプランニングに含めることにより、トータルコストにほとんど影響を及ぼすことなく実現できるものばかりです。
ほかにも、コンクリート躯体の形状を利用して雨水貯留槽にし、災害時の貯水槽として利用する、非常時を想定し限定したエリアだけに供給する電源システムの回路切り替えを設計時から設定するなど、特別なコストをかけずに実施できる施策は少なくありません。
こうした省コストのアイデアを豊富にもつのは、病院という特殊な施設の設計実績が多く、経験と技量を蓄積している久米設計の病院設計タスクチームにほかなりません。
さて、このようにしてLCBが病院に導入されれば、実際に災害が起きたときはもちろん、平時であっても病院のメリットは増大します。
「災害時にも質の高い医療を提供できる病院」という地域の信頼を得られることです。BCPの導入によって、社会と地域からの「信頼」という、医療機関にとってかけがえのない財産が築かれるにちがいありません。