他の所得からの控除が可能な「譲渡損失」だが・・・
前回の続きです。
2 他の所得と損益通算できない譲渡損失
譲渡所得による損失額が生じた場合には、事業所得や不動産所得など他の所得から控除することができますが、譲渡による損失額であっても次の損失はなかったものとされ、他の譲渡所得の金額から差し引いたり他の所得と損益通算することもできません。
①譲渡所得が非課税とされる生活に通常必要な動産の譲渡により生じた損失の金額(所令25条)
②資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合において強制換価手続その他これに類する資産の譲渡により生じた損失の金額
③土地建物等および株式等の譲渡ならびに非課税とされる有価証券の譲渡により生じた損失の金額
④個人に対し資産を時価の2分の1未満の著しく低額で譲渡したことによる損失の金額(所法59条2項、所令169条)
「生活に通常必要でない資産」に生じた損失の取り扱い
3 生活に通常必要でない資産の譲渡または災害による損失
資産の譲渡による損失または災害による損失が生じた場合には、①各種所得金額の計算にあたり必要経費として控除するか、資産損失に見合う部分の所得をないものとみなして所得金額を減額させる方法と、②課税標準となる所得金額から雑損控除として控除する方法の2つがありますが、生活に通常必要でない資産について生じた損失は、次のように取り扱われます。
(1)生活に通常必要でない資産
生活に通常必要でない資産とは、次のような資産をいいます(所令178条)。
①別荘、保養所、美術館などのように、主として趣味、娯楽、保養の目的で所有する家屋で、通常、納税者または納税者と生計を一にしている親族が居住していないものや、主として趣味、娯楽、鑑賞の目的で所有する資産およびゴルフ会員権、リゾート会員権等
②競走馬、その他射こう的行為の手段となる動産(ただし、競走馬でも一定規模以上の頭数の馬を所有し、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものを除く)
③宝石、貴金属、書画、骨とうなど生活の用に供する動産であっても、常時使用するものでなく、これを譲渡した場合に譲渡所得の課税対象(1個または1組30万円超)になるもの
(2)譲渡損失の取扱い
これらの生活に通常必要でない資産を譲渡した場合に譲渡益が生じたときは、譲渡所得の課税対象になります。逆に譲渡損失が生じたときは、他に譲渡所得がある場合にはその譲渡所得の金額の枠内で差引計算をすることができますが、譲渡所得以外の事業所得や不動産所得などと損益通算することはできません。
ただし、事業用以外の競走馬の譲渡による損失については、その競走馬の保有により生じた馬主の賞金などの所得(雑所得)の範囲内で差し引くことができます。
(3)災害、盗難、横領などによる損失
生活に通常必要でない資産が災害や盗難、横領などにより損失を生じた場合には、その損失額を他の所得と損益通算したり雑損控除の対象とすることはできませんが、その損失が生じた年分に譲渡所得がある場合には、その損失額を譲渡所得の金額から控除することができます。もし、その損失が生じた年分の譲渡所得の金額から控除しきれない場合には、その控除しきれない部分の損失金額は翌年1年間に限って繰越控除することができ、その翌年においても控除しきれないときは、切り捨てられます(所法62条)。