電子記録債権は「電子化した手形」ではない
電子記録債権は、従来ある他の金銭債権と比較してみると、よりその特徴が理解しやすいでしょう。
手形も電子記録債権も基本的に、債務者が債権者に対し、一定の金額を一定の時期に支払うことを約束する内容である、という点は同じです。また、取引の保護のために、善意取得、人的抗弁の切断、支払免責、保証の独立性なども認められています。
このため電子記録債権は時に、「電子手形」と呼ばれることがあります。しかし、電子記録債権は「手形の電子化」とは違います。手形はあくまで手形法に基づくもので、紙に権利内容を記載することが大前提になっています。これに対し、電子記録債権は電子データとして記録します。電子データでは手形法にいう手形をつくることはできないのです。
もちろん、電子記録債権で「手形的なもの」を設計することはできますが、それは厳密には電子手形と言えません。
手形のような保管コストはなく、印紙税も不要
なお、前述のとおり、記載事項が限定されている手形と違って、電子記録債権ではさまざまな記録事項が認められています。
例えば、手形では善意取得や人的抗弁の切断を認めない記載をしても無効ですが、電子記録債権では適用するかどうかの取り決めをオプションとすることが可能です。
さらに、電子記録債権は電子データとして記録・管理されるため、手形のような保管のコストや盗難・紛失のリスクがありません。また、印紙税も不要とされています。支払金額も手形のように券面に記載された総額のままである必要はなく、必要な分だけ分割し、譲渡したり割り引いたりすることができます。
ただし、電子記録債権を手形の代替として利用する場合には、手形と同様に多くの取引関係者の間で流通させ効率的に決済するため、記載事項をむしろ制限し、標準化・画一化を図る必要があるでしょう。