肩は「ストレスの影響」を受けやすい
痛みを抱えていると、何事にも億劫になってやる気が出ません。それが長期に及ぶと「この痛みはいつまで続くのだろう」「治らなかったらどうしよう」と、不安や焦りの気持ちが強くなり、精神的なストレスになってきます。
私たちの体は強いストレスを感じると、その状況を回避するために心拍数を上げ、血管を収縮させて血圧も上げ、筋肉を収縮させてケガをしてもすぐに修復できるように白血球の一種であるリンパ球が増加するなどして、臨戦態勢に入ります。
この反応は、太古の昔から人類が生き延びるために構築したシステムで、いつ野生動物に襲われるかわからない危機的状況の中で、すぐに逃げるか戦うかの行動を起こすための防御反応といわれています。
それが、平和な現代になっても体の反応として残っており、ストレスを感じると身を守るために臨戦態勢をとるのです。
このストレス反応をもたらしているのは、「自律神経」という自分の意思とは関係なく働いて体をコントロールしている神経です。呼吸や心拍、血圧、体温、発汗、内臓の働きなど生命活動に関わる全身の機能を調整しているのが自律神経なのです。
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があり、交感神経は主に日中に働いて体を活発に動かし、適度に緊張状態をつくる活動モードの神経です。これに対して副交感神経は、主に夜に働き心身をリラックスさせ、睡眠を促す休息モードの神経です。
両者はシーソーのような関係でバランスをとっていますが、ストレスが多い現代では夜になっても交感神経が優位になり、緊張状態が続いている人が多いのです。
痛みというストレスも、体にとっては危機的状況ですから交感神経が優位になり、血管が収縮すると同時に運動神経も興奮して筋肉の緊張が起こります。特に肩はストレスの影響を受けやすく、緊張していると「肩の力を抜いて」というように肩周囲の筋肉が収縮してしまいます。この代表的な症状が「肩凝り」です。
長期的な痛みが「うつ病」を発症させることも・・・
通常は、こういった交感神経の反応はすぐに治まるため、血管の収縮も元に戻って血行は改善します。しかし、痛みを放置していたり、何らかの原因で痛みが長く続くと、血管を元に戻す正常な反応が起こりにくくなり、血流の悪い状態が続きます。血流が悪いと血液に乗って細胞に運ばれている酸素や酸素も滞り、組織が虚血状態となり、発痛物質が発生して元の痛みに、さらに新たな痛みを追加するという状況をつくり出してしまいます。これにより痛みが増強されるわけです。
これらの発痛物質は血管を収縮させる性質を持っているため、再び血流を悪化させ、発痛物質をさらに発生させるという悪循環を引き起こします。これによって、痛みがなかなか治まらない状況にしているのです。
さらに、痛みが長期に及ぶと精神的にも追い詰められ、自律神経のバランスが崩れることでホルモンバランスまで崩し、「うつ病」を発症させることもあります。つまり、体の痛みは体だけではなく心にも影響を与えるのです。
これとは逆に、悩み事を抱えているなど精神的ストレスがあっても、体に痛みを発生させることがあります。これは心因性の痛みで、実際に患者さんの中には「肩が痛くて腕が上がりません」と訴えていたにもかかわらず、帰りには電車の中では腕を上げて吊り革をつかんでいたりします。だからといって詐病ではなく、本当に痛みとして現れているのです。
このように、体の痛みが心まで蝕む一方、精神的ストレスが強いと体まで痛くしてしまいます。ですから、痛みは長引かせずに早く取り除くことが、心身の健康には重要なことなのです。