前回は、税理士がクラウド会計を味方に「コンサルティング力」を磨く方法を取り上げました。今回は、経営コンサルティングにおいて「資金繰り表」が重要となる理由を見ていきます。

会社の改善点や課題を探るために不可欠

ここからは、経営コンサルティングを行うに当たっての手順や手法についてお話しします。まず、最初にやるべきは「資金繰り表の作成」です。顧客の経営状態について現状を把握し、課題を見つけていくための資料として、資金繰り表が必要です。

 

言うまでもないことですが、一般に、資金繰りがうまくいっている会社は健全度が高く、悪い会社は健全度が低いことになります。つまり、会社の健全度を上げていこうと思うと、最初に資金繰りの状態を見て現状分析をしなくてはなりません。そして、そこから改善すべき点や課題を探っていくというのが、コンサルティングの道順になります。

 

どんな業種であれ、手残り(経常利益)を考えるということが重要です。手残りがないと最悪は倒産してしまいますから、至極当然のことではあるのですが、実はそれができていない経営者も意外にも多いのです。

 

たとえば賃貸経営でいえば、確定申告書の数字を見て所得がプラスになっているから、自分は儲かっていると思ってしまい、新たなアパートを建設して借金をしてしまう人がいます。

 

しかしながら、税理士の皆さんならおわかりと思いますが、決算書や確定申告を見ただけでは手残りがあるか、ないかまではわかりません。下記の図表を見ていただきたいのですが、年間所得計算表では、確かに所得はプラスの値になっています。しかし、キャッシュフロー表を見ると、手残りがマイナスの値になっていて、実際にはお金がないことが分かります。

 

[図表]キャッシュフロー計算表をつくる

資金繰り表まで落とし込み、初めて手残りが分かる

実は、所得は出ているのにキャッシュはないといったズレは、賃貸経営ではよくあることです。これは賃貸業では借入の元本が大きいからなのですが、確定申告書に「借入元本」が出てこないため、お金があるものと勘違いをしてしまうのです。結果的に手残りが全然なく、将来の税金や修繕積立金のための貯蓄ができないということになってしまったり、すでに赤字決算なのにもかかわらず「節税しなくては」と経費を膨らませて、余計に赤字を大きくしてしまったりしがちです。単純に手残りを減らしつづけて、納税もしていなければ、いざというときに融資が受けられなくて困ることもあります。

 

つまり、資金繰り表まで落とし込んでから初めて手残りは明らかになります。経営者が申告書だけしか見ていない場合、自分がどの程度お金を使っていいのかがわかっていない可能性が非常に高いです。ですから、我々税理士は、顧客がわかりやすい資料を作って、「今、経営がどういう状況にあるか」をわからせてあげなくてはならないのです。

 

残念ながら現状、税理士側から率先して「資金繰り表を作成しましょう」といった提案をしていくことは稀です。手間がかかりますし、頼まれたことだけをしていればいいという考えもあるのでしょう。経営は経営者が考えてするもので、成功も失敗も自己責任だと言ってしまえばそれまでなのですが、それではあまりに冷たく、顧問としての存在価値がないように思います。少しの気遣いで経営者に勘違いを気づかせ、失敗を防ぐことができるのであれば、ぜひやってあげるべきではないでしょうか。結果的にそれが自分の税理士としての評価を上げますし、ブランディングにもなります。

「税理士」不要時代

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渡邊 浩滋

幻冬舎メディアコンサルティング

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