「社会に恩返ししたい」と思って就職した銀行だが・・・
ぼくは一度、金融機関に勤めたことがあります。
大学を卒業してから就職したのは、地方銀行でした。母子家庭で育ち、奨学金ももらって大学まで出させてもらったため、母の住む地元で、社会に恩返しできるような仕事がしたい。そんな思いで就職しました。
しかし、当時は日本の金融業界がバブル崩壊以後ずるずると引きずってきた不良債権問題に大ナタが振るわれていた頃でした。新規の融資よりも不良債権処理が優先され、いわゆる「貸し渋り」「貸しはがし」が行われていました。金融機関の資金回収によって企業が破綻に追い込まれることも、頻繁に起こっていました。
ぼく自身、「地域社会のために」と勇んで入行したものの、融資先への取り立てや、差し押さえのための裁判所への申し立て文書の作成といった仕事に追われる毎日を送ることになりました。毎月、月末になると、証券取引所から手形が不渡りになった(つまり、お金が回らなくなった)企業のリストが職場に届きました。その数の多さに唖然としたものです。
もちろん、ビジネスには成功もあれば失敗もあるものです。経済の活力のためには新陳代謝も必要で、一定の倒産が生じるのは摂理ともいえます。不採算の事業をいつまでも延命させればいいというものでもないでしょう。
とはいえ、企業の倒産は、そこで働く人たちの生活や地域経済に大きな影響をもたらします。地元の企業を応援したいといった青臭い思いで地元の銀行に就職したものの、企業が苦しいときに助けるどころか引導を渡すような銀行のあり方に、ぼくはいたたまれない思いがしました。結果、わずか1年半で辞めることになりました。
「地元のために預金したお金」が国債の購入費に!?
地域の金融機関は、本当に地域のためになっているのか。それを考えるうえでぼくが注目している一つの指標が、金融機関の「預貸率」です。
預貸率とは、金融機関の預金残高に対する貸出残高の割合のことです。金融機関が預金というかたちで集めたお金を、どれだけ貸出に回しているかを示す指標です。
[図表]金融機関の業態別に見た預貸率の推移
上記のグラフにはっきり表れているように、全国の金融機関の預貸率は、20年ほど前から年々減少しています。とりわけ、地域金融の重要な担い手とされている信用金庫や信用組合の低下は顕著です。
これは、お金を貸出に回すのではなく、国債等を買って運用する傾向が強まっていることを意味します。
言い換えれば、ぼくたちが「地元のために」と思って預けたお金が、地元の企業などへの融資に使われるのではなく、国債の購入、つまり国の借金を賄うことに使われるわけです。国が借金したお金はいろいろなことに使われますが、もともとお金を出した地域のために使われるのは、そのきわめて限られた部分でしょう。使途のなかにはぼくたちの望まない公共事業などもあるかもしれません。
金融機関に預けたお金の行き先は「不透明」
地域で預けられたお金が、地域の外へ出ていき、その行き先は不透明なのです。
そもそも、金融機関から企業に貸し出されるお金の行き先を、預金者は普通知りません。地域金融機関に限らず、メガバンクなど、どの銀行にも言えることですが、預金者の預けたお金がどんな企業に融資されているのかは、預金者側には基本的に知らされない。これは当たり前のようになっています。
しかし、そんな従来の金融の枠組みのなかで、これからますます必要とされるNPOやソーシャルビジネスにお金が回りにくいという状況があるわけです。地域の課題解決に挑むNPOへの融資が断られている一方で、たとえば環境破壊に加担している企業や、従業員の人権を無視しているような〝ブラック企業〟、反社会的勢力とつながっているような企業に、お金が回っている可能性もあるのです。
ぼくたちは、自分のお金がどのように使われるかも知らずに、お金を金融機関に預けているのです。それだけ金融機関を信頼しているからだとも言えますが、もしそれを知ることができたら、何が変わるでしょうか?