預貯金で環境保全を推進する「エコ貯金プロジェクト」
ぼくたちの活動だけではありません。新しいお金の流れを地域でつくり出そうとする取り組みは、ここ十数年のあいだに日本各地に広がってきました。
NPOバンクは2017年6月現在、全国に15団体あるとされています。あいちコミュニティ財団のような、いわゆるコミュニティ財団は、全国に60ほど立ち上がっています。再生可能エネルギーの開発に取り組む市民ファンドを立ち上げる動きも一時期、大きな話題になりました。
十数年前に生まれた、社会的によい取り組みをしている企業だけを投資対象とする「社会的責任投資(SRI)」の投資信託(SRIファンド)も、多くの人に支持されて伸びているようです。
金融機関に対するお金の預け方に関しても、少しずつ意識は変わってきたのではないかと思います。
ぼくが銀行を辞めた後に勤めた国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」が推進している「エコ貯金プロジェクト」は大きな話題となりました。環境破壊に加担している企業を融資先としているような金融機関にはお金を預けず、環境にやさしい取り組みをしている企業を融資先とする金融機関に預金しよう、と呼びかけるプロジェクトです。預貯金を通じてエコを推進するという趣旨に多くの人が賛同し、メディアでもたびたび取り上げられています。
「日本には寄付の文化がない」などと言われますが、東日本大震災の後、NPOなどに寄付した人も多かったのではないでしょうか。どのような団体に寄付するのがよいのか、慎重に調べた人もいらっしゃるはずです。金額が年々増加しているふるさと納税という仕組みも、自分の応援したい人にお金を投じることへの関心を高めていると思われます。
インターネットを通じて個人から小口資金を集められるクラウドファンディングも、ここ数年で急速に普及してきました。社会的なプロジェクトに1000万円以上の資金が集まる事例も出てきました。ソーシャルファイナンスと言われるこうした動きは、今後さらに広がっていきそうです。
世の中のお金の流れに、自分のお金の行き先に、もっと関心を持とう。そんな思いが、静かに広がっているのだと思います。
金融機関も注目する、地域内「志金循環モデル構想」
そして、このようないわば「金融を手づくりする」取り組みが進むなか、既存の金融機関にも少しずつ変化が見られるようになりました。
ここ数年、金融機関がぼくたちの取り組みに注目し、研修目的で職員を派遣してこられたり、協働でプロジェクトを行ったりするケースが徐々に増えてきました。NPOバンクと金融機関によるソーシャルビジネスへの協調融資も日本で初めて実現しました。momoやあいちコミュニティ財団の運営には、地域金融機関の役職員のみなさんにも深く関わっていただいています。
近年の地域金融機関の変化には、金融行政がこの数年で大きく転換しつつあることも影響しているようです。地域密着を掲げながら、それとは矛盾するような行動をとっている地域金融機関が多いのではないか、本来の目的である地域経済への貢献をおろそかにしているのではないか。そんな問題意識が金融庁から示されています。
融資を抑制してきた十数年のあいだに金融マンが融資先を審査する能力も落ちてしまったと言われています。改めて、目先の数字だけでなく、事業の将来性を評価する目を養っていかなければならない状況に多くの金融機関が直面しているのです。一見、資金回収が難しそうなNPOにお金を貸して、これまで一度も貸し倒れを出していないmomoのやり方に、興味を持たれる金融業界の方が増えているのもそのためでしょう。
ぼくたちが数年前から掲げ、事業を通じて追求しているのが「地域内〝志金〟循環モデル構想」です。地域の金融機関、行政、NPOバンク、コミュニティ財団が連携して、「地域に貢献したい」という「志」のこもったお金を地域のなかで生かし、地域の課題解決に挑む事業者を応援することで、よりよい地域づくりをみんなで一緒に進めていこうというビジョンです。
「地方創生」も叫ばれるなか、「新しいお金の流れ」を地域に生み出すことで、従来の負のサイクルを逆回転させ、好循環を生み出していくことができないでしょうか。
次章以降、その具体的な方法と考え方を、momoとあいちコミュニティ財団の活動を通してぼくが学んできたことを軸に、お伝えしていきたいと思います。