本連載は、コミュニティ・ユース・バンクmomo・代表理事・木村真樹氏の著書、『はじめよう、お金の地産地消――地域の課題を「お金と人のエコシステム」で解決する』(英治出版)の中から一部を抜粋し、「新しいお金の流れ」を地域に生み出し、地域の課題を解決するNPOバンクの取組みを紹介します。

人々が「お金を託してくれる」理由とは?

「生まれ育った地域のために何かできないかと思い、出資しました」

「子どもたちが豊かに暮らせる未来のために、役立ててください」

「小さな一歩から社会は変わっていくのだと思います。ささやかながら出資します」

 

そんな言葉を添えて、ぼくたちを信じ、お金を託してくれる方がたくさんいます。

 

ほとんどはごく普通の人たちです。会社員、公務員、団体職員、教員、学生、主婦、自営業者、経営者、リタイアされた高齢者の方等、さまざまな人たちがぼくたちに出資してくれています。

 

ただし、出資いただいたお金には、利子も配当もありません。何年出資しても1パーセントも増えないのに、「地域の未来のために」とお金を持ち寄ってくれるのです。

 

ぼくたちはそのお金を、地域のさまざまな課題解決に挑戦する人たちへ融資しています。そして出資者のみなさんに、そのお金が何に使われたか、地域でどう生かされたかを報告しています。お金を持ち寄ってくれたみなさんにお金で報いることはしませんが、お金ではない価値を地域に育みます。利子がつかず、お金は増えず、その代わり、人とのつながりが地域に増える。そんな「ちょっと変わった銀行」と言えるかもしれません。

融資先は「地域のため」を念頭に置いた事業

たとえば、ぼくたちは次のような事業にこれまで融資してきました。

 

●都会の人たちに田舎暮らし体験を提供する簡易宿泊施設の立ち上げ

●無農薬・無化学肥料による生鮮野菜の生産と提供

●マイクロ水力発電によるエネルギー自給モデルづくり

●街頭キャンペーンによるNPOの資金調達活動・自然素材住宅をデザインする設計事務所による木材産地ツアーの実施

●障がいを持った子どもたちへのデイサービスの提供

●海外旅行や国際交流が好きな若者たちが集まる英会話スクールの運営

●精神・発達障がいを持つ人たちへの就労支援

●間伐材による割り箸の生産

●高校生が主体的に進路を選択できる力をつけるワークショップの実施

 

ほかにもさまざまな事業に融資してきましたが、ぼくたちの融資先に共通するのは、「地域のため」を念頭に置いた事業を営んでいること、営利目的ではないため既存の金融機関からお金を借りるのが難しかったこと、そして、(にもかかわらず)ぼくたちが貸したお金をきちんと返済してくれていることです。

 

また、融資を受けられるほど事業が成熟していない団体に対しては、助成金での資金支援を別の組織で行っています。地域のみなさまから寄付を集めて、そのお金を地域のために役立ててくれそうな事業者を選定して助成する。「地域のために役立ててほしい」というお金を、適切な事業へつなぐのです。この取り組みによって、地域のさまざまな課題が「見える化」され、具体的な解決策づくりへとつながっています。

 

そんなお金の流れをつくることに、ぼくは12年間、取り組んできました。

 

大切なお金を、信じて託していただくのは簡単なことではありませんが、おかげさまで少しずつ信用を得て、今では540の個人や法人から出資いただいています。また、既存のさまざまな金融機関とも連携するようになりました。

 

「なぜ、そんなことをしているの?」とよく訊かれます。NPOにお金を貸したり、寄付金を集めたりと言うと、いかにも儲からなそうな仕事と思われます。独身の若者ならともかく、不惑の40歳。幼い子どもも二人います。大丈夫なのかと心配してくれる方もいるようです。

 

でも、だからこそ、ぼくはこの仕事をしています。子どもたちがずっと幸せに住み続けられるような、地域の未来をつくるために。

はじめよう、お金の地産地消

はじめよう、お金の地産地消

木村 真樹

英治出版

「お金の流れ」が変われば、地域はもっと元気になる。 子育て、介護、環境…地域づくりに取り組む人をみんなで応援する仕組みをつくろう。 若者たちが始め、金融機関、自治体、企業、大学、そして多くの個人を巻き込んで広が…

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