前回は、東南アジアで盛り上がる日系企業によるM&A最新事情を紹介しました。今回は、M&Aの対象として「債務超過」の会社をどう考えるかを見ていきます。

事業の債務が適正なら、検討に応じる熟練投資家も存在

債務超過とは会社の資産を全て売却しても、買掛金や借入等の負債を返済しきれない状態を指します。経営的には厳しい状況にあることは間違いありませんが、債務超過だからといって倒産するわけではありません。結論から言えば、債務超過の会社でも利益を上げていればM&Aの対象になりますし、現在は赤字でも損益が好転する可能性がある会社であれば、十分に対象先となります。


債務超過会社には「過大な債務」が計上されていることがほとんどです。この債務がM&Aをする投資家にとっては大きな障害になります。債務カット・圧縮した上での引継ぎを望むのは当然ですが、そう簡単ではありません。

 

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先日、懇意にしている弁護士さんが、この部分に関して「債務の適正化」という表現を使われていました。前向きな印象があり、とても良い言い回しだと感じました。事業に対する債務が適正であれば、検討に応じる熟練投資家は存在します。

 

債務の適正化に応じなくてはいけないのは金融機関ですが、実際に応じてくれるのでしょうか? 結論から言えば、一定の条件を満たせば応じてくれる可能性はあります。これは金融機関にとってもメリットがあります。清算すればほとんど返済が見込めない企業から、M&Aによる資金調達により、ある程度の返済が見込めるようになるためです。

 

民事再生や破産等の「法的整理」もありますが、対外的な信用の喪失や一般の取引先も巻き込むことから、M&Aという外部承継を前提とした場合は、一般的にはお勧めできません。


実際には、金融機関と個別に債務適正化を交渉する「私的整理」を使うケースが多く、特定調停、特別清算等と第二会社方式の組み合わせで行われます。第二会社方式とは簡単に言えば、収益性がある事業を新たな会社に移して存続させることです。実務としては、会社分割という手法を使うことが多いです。残された事業や負債は特別清算や特定調停などの手法で整理されるのが一般的です。

要件を満たせば債務圧縮額は「無税償却」

数年前、会社分割による第二会社方式が濫用され、その多くは債務者、金融機関等の同意を取らずに一方的に行ったことで問題になりました。詐害行為にあたることを理由に、会社分割の手続きの効力が争われて裁判になったケースも多々あったようです。法律違反もさることながら、関係者からの反発を招き、事業継続上マイナスになることも否定できません。

 

M&Aで事業承継する場合には、まずは事業承継の対価を適正に評価し、金融機関に債務適正化を正面から交渉することが大事です。また、税務上所定の要件を満たした場合には、債務圧縮額(債権放棄額)が税法上の損金に算入され「無税償却」となります。金融機関が債務適正化に応じるためには、無税償却となることが必要です。

 

この一連の手続きを債務者である社長が自ら行うことは心理的にも時間的にも負担が大きく、専門家のサポートが必要となります。弁護士法で代理行為は弁護士に限定されているので、金融機関との交渉は弁護士に依頼するのが良いかと思います。筆者も以前は、債務者である社長に同席し交渉サポートをしたことがありますが、正直しんどい仕事で自分には向いていないと実感しました。筆者以上に中小企業支援に思い入れや能力がある方は沢山いますので、現在は弁護士さんや士業の先生方にお任せしています。

市場が大きく競合も少ない「債務超過会社」のM&A

現在、M&A市場で人気があるのは、純資産が厚く、利益率が高い企業です。投資リスクは低いかもしれませんが、一般的に譲渡代金が高く、投資回収期間が長いケースが多いのが実状です。

 

M&Aに限らず、投資の世界では「底値で買う」のが基本とされています。一方、価格が安いからという理由で、安易に債務超過会社をそのまま買うことはお勧めできません。過大な債務に加え、簿外債務までついてくるリスクがあります。会社分割、債務適正化というプロセスを経て良い案件に巡り会える機会が増えます。


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現在、M&Aは定着からブームになりつつあります。買いたい方は多いですが、優良企業の売却案件はそう簡単には出てきません。債務超過会社のM&Aは、まだ多くの投資家は着目しておらず、市場は大きく競合も少ない状況です。もし、貴方が少しの手間とリスクを許容できる方であれば、チャレンジする価値はあると思います。株式投資の有名な格言に「人の行く裏に道あり花の山」とありますが、M&Aの世界も同様かもしれません。

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