前回は、スモールM&Aを活用した事業承継対策について解説しました。今回は、東南アジアで盛り上がる日系企業によるM&A最新事情を見ていきます。

日本企業と相性のいい東南アジアは、絶好の進出市場

海外進出といえば上場企業や一定規模以上の企業がメインプレーヤーでしたが、中小零細・ベンチャー企業社長が東南アジアへ新たな収益源を求め動き始めています。まるで地方拠点をつくるようなスピード感覚です。

 

業種も従来の製造業から、サービス業全般へシフトしつつあります。当然リスクもありますが、小規模の会社は、臨機応変にローカル事情に合わせ対応できる強みがあります。

 

アセアン10ヵ国の人口は6億人を超え、人口増加率・経済成長率も高いエリアです。親日国が多く、時差が少ないことも魅力のひとつです。同時に中間富裕層が厚くなり、日本への投資意欲も旺盛なってきており、買う側だけでなく、売る側として海外をとらえる動きも見られつつあります。

 

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国別に法律や習慣、リスク度合いが違うため、今回はタイのM&A・投資環境について限定します。カラーバス効果という言葉を聞いたことはあるでしょうか。例えば、赤色を意識して街に出ると、赤い車、赤の看板等が目に飛び込んでくる現象で心理学用語です。筆者は2カ月程前からタイへの出張が決まっていたせいか、日本にいながら現地のM&A情報等が、どんどん飛び込んでくる不思議な感覚に包まれました。これほどタイに関係している日本人が周りにいること自体が驚きでした。

 

滞在中に、日本貿易振興機構(ジェトロ)から日系企業の調査報告書が公表されました。タイに進出する日系企業はこの三年で約20%増加し、現時点で5,400社に達しています。以前は過半数を占めた製造業ですが、直近3年で進出した日系企業は製造業約200社に減少し、非製造、サービス関連企業が630社と比率が大きく逆転しています。

 

特に卸売業、会計事務所、人材紹介、コンサルタント業、コールセンターなどの専門サービス業が目立ちます。また、中小企業の進出数(432社)が大企業(404社)を上回っており、日本の特徴的なサービスを持つ企業が新天地を求め進出が増加している様子が伺えます。

日系を含めた外資系企業の事業承継から始める手も

日系企業のM&Aや進出の話題をしていると、BOI(Board of Investment)というキーワードが頻繁に出てきます。タイの経済の発展・雇用にメリットあると思われる企業に出資比率の規制緩和、税制優遇制度などを与える機関です。このような背景もあり、BOIの認定を受けることを目標とする日系企業が多いのですが、目論見が外れるケースも見受けられます。政治問題等で優遇制度が反故になることもあります。実際にルール通りに申告していたにも関わらず、国税当局より10億円規模の追徴課税された日系大手企業の事例もありました。

 

また無理にBOIを取得した場合など、3年後の監査で問題になるケースも多いようです。日本でも同じですが、国から助成金や優遇制度を受けると、その後の経理処理・報告書が面倒になります。まずは、優遇なしでビジネスが成立するかどうか判断することが、海外進出の基本と感じます。

 

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現地にて債権回収を行う方から決算書類の信憑性についてヒアリングしました。残念ながら会計ルールを遵守していない企業も多いとのことです。もちろん、日本でも同じことはいえるかもしれません。また、仕事に対する意欲、お金に対する考え方、契約概念の違いなど、当然ながら日本とは商慣習が違い戸惑うことは多そうです。

 

現地の水先案内人である日本人に騙されたという話は世界各国でよく聞きますが、残念ながらタイも例外ではありません。どうしたら信頼できる水先案内人に会えるのでしょうか。最終的には自己責任で判断するしかありませんが、人の判断など限界があります。まずは、自分だけは大丈夫という思い込みを捨てる、即決しない、現地での風評はどうか、共通の知人はいるかなどの自分なりの判断軸を持つことが大事です。

 

タイは歴史的に多くの日本企業が進出し、当然ながら失敗事例も数多く存在します。敬意を表してその先人達の失敗経験から法則を学ぶべきです。また、現在も5,000社を超える日系企業が存在し、その数は増加傾向にあります。その中に本社の意向や、現地マネジメントの失敗、BOIの監査指摘などで撤退を考えている企業があるはずです。他国の外資系企業も含めれば対象は大きく広がります。そのような日系を含めた外資系企業を事業承継するのが、最初の入口としては良いのかもしれません。

 

独特のローカルールもあり苦労することもあるでしょう。しかしながら、そのいい加減さ、怪しさ、混沌さを含めて、多くの日本人を惹きつける魅力がある国なのだと思います。

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