「1円玉1枚作るのにいくらかかると思う?」
1円玉を集めるのが大好きなある大富豪は、ご自宅の金庫でとんでもない枚数を保管されています。数えたことはありませんが、おそらく1億円以上あるのではないでしょうか。1円玉を100枚持って銀行に行けば、100円玉に替えてくれます。その方は逆に、銀行で定期的にお札を1円玉に替えてもらって、金庫に入れているのです。
金庫のなかに1万円札が束になって積まれている、というならわかります。ところがお札ではなく1円玉なのです。誰でも「どうして、1円玉を集めておられるのですか」と聞きたくなるでしょう。
大富豪は真顔でこう説明なさいます。「1円玉1枚作るのにいくらかかると思う?アルミの材料費と製造費を合わせると2~3円くらいだ。額面より価値があるんだよ」
ほかの貨幣や紙幣は額面よりはるかに安いコストで作れます。唯一、1円玉のコストは、額面を上回っているのです。大富豪はそこに価値を見出していました。
また、大富豪は「1円玉を集めることが最悪の事態に備える防衛策」とも考えています。「日本の通貨制度が崩壊したら、お札などは紙くずになってしまうだろう。1円玉は貨幣としての価値を失っても、アルミとしての価値は残る。国が破たんしたら、材料として売ればいいんだよ」
現在、アルミの国際価格は1キログラム210円程度です。1円玉と同じ1グラムに直すと0.2円ほどですから、アルミ地金の価値のほうが小さいわけです。
それでも、国が混乱するほどの事態になれば、インフレになり、アルミの価値が高まってくる可能性はあります。
孫やひ孫の代までを視野に入れた「長期の資産経営」
また、大富豪は自国の通貨に印された数字を信用していません。ロシアや中国の大富豪は日本の大富豪以上に慎重で、資産をドルなどに替えて海外に持って出たり、できる限り金やプラチナに替える方が少なくありません。
政治や経済が不安定な国で、自国通貨がリスクにさらされていると考えることは、大富豪にとって当たり前の感覚なのです。そう考えるのも、大富豪の投資の基本スタンスと深い関係があるからです。
大富豪は、長期にわたる資産形成を視野に入れています。長期とは10~20年程度の期間ではなく、孫やひ孫の代までです。だからアメリカという自由と民主主義を標榜(ひょうぼう)する超大国に対してさえ、「まだ歴史の浅い国だから、この先、何が起きるかわからない」という感覚をお持ちです。
1円玉を集めるという行為は、大富豪の先の先までを見通した投資の象徴といえます。その方が1円玉を集めるようになったのは、けっしてお金持ちになってからではありません。ずっと前から何十年もつづけているそうです。若い時分からイザというときに備えたリスク管理を考えてきたのです。
私たちが自宅の金庫に一円玉をたくさん保管するのは現実的ではありません。しかし、大富豪のリスク管理の考え方を取り入れることはできます。
例えば、今はさまざまな国の通貨を買うことができます。そのときに金利の高さだけに惑わされず、通貨を発行した国の信用を考えてみるのです。
その国が戦争状態になったり、財政破たんに至る危険はないだろうか、通貨を無計画にどんどん発行していないかと考えてみます。それだけでも、通貨の安全性が正しく捉えられるでしょう。
また、どの通貨が信用を失うか、予測がつかないこともあります。そこで、比較的安全と思われる、いくつかの国の通貨を複数持てば、リスクに強い投資になるでしょう。
1円玉を大切にする習慣からは、日本国の通貨であっても、長い歴史のなかでは価値が変わるということまで考えて投資をしなくてはいけないという教訓が得られるのです。