平成29年度の税制改正により、外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)は抜本的な変更が加えられることになりました。そして平成30年度には、また新たな改定が予定されています。本連載では数回にわたり、この外国子会社合算税制について解説していきます。

抜本的な改正となり、用語も変わり複雑に

平成29年度の外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)改正は、抜本的な改正であり、用語等も変わり複雑になっています。また、外国子会社を多くもつ日本企業に与える影響も大きいものがあります。

 

外国子会社合算税制は、税金の安い海外の国・地域に子会社をつくって、そこに日本親会社の利益を何らかの取引でシフトし、日本の税金の節税を図る行為を、規制する税制です。外国子会社に溜まった利益が親会社の国内の利益と合算されて、日本の法人税率で税金がかかることになります。一般に「タックス・ヘイブン対策税制」といわれる税制ですが、この税金の安い海外の国・地域が「タックス・ヘイブン」と呼ばれます。

 

ただ、どのような国・地域がタックス・ヘイブンとなるか、つまり、税金が安いといっても、自国に比べてどこまで安いとタックス・ヘイブンになるのか、特定の取引は非課税もしくは低税率だが、基本法人税率がそこそこ高い国はどう扱うかといった点は、国際的にも、各国の国内法でも、それほどしっかり定まっていません。

 

ご存知の方も多いと思いますが、地中海の島国マルタでは10月16日、政治家の腐敗を厳しく追及してきた地元の記者、ダフネ・カルアナガリチアさん(53)の運転する車が爆発し、カルアナガリチアさんは死亡しました。

 

カルアナガリチアさんは、世界各国の首脳などの資金隠しや課税逃れを暴いた「パナマ文書」の調査報道で、マルタのムスカット首相の妻が資金を隠していた疑惑なども報じていました(NHK News Webより)。

 

このマルタも実はタックス・ヘイブンで、基本法人税率は35%と高いのですが、著作権や特許権保有会社は35%課税ながら、税引後利益からの配当はその6/7が株主に還付されます。従って、オーナー株主の実効税率は「5%=35%-35%×6÷7」となります。

「タックス・ヘイブン」とは?

さて、一般的には、タックス・ヘイブンはその特徴、納税者サイドの使い勝手のよさからみると、

 

a 無税国

b 低税率国

c 国外所得非課税

d(持株会社などに対する)租税特典国

 

と、大きく4つに分けられます。

 

一方、税務当局から見た場合は、タックス・ヘイブンがもたらす有害な租税競争の観点から、OECDではタックス・ヘイブンの判定基準として、

 

①無税または名目的課税

②有効な情報交換の欠如

③透明性の欠如

④実質的活動要件の欠如

 

をあげています。

 

少し古いデータですが、英エコノミスト誌(2013年16-22日号)の記事によれば、上記の特徴に加え、規制の緩さと秘匿性を加えれば、世界には50から60のタックス・ヘイブンがあり、約200万のペイパー会社の本籍地になっています。また無税の投資資金は21兆USドルを超えるとのことです。

 

上記のa、b、c、dの観点から、国・地域全体がそのままタックス・ヘイブンになる場合(無税国のケイマン、バミューダ、バハマ、ブリティッシュ・バージン諸島や低税率国の香港、シンガポール、マカオなど)もあれば、特定の税金や法人、個人に租税特典があってタックス・ヘイブンになる場合(イギリス、オランダ、スイスなど)もあります。
また、「オフショアファイナンスセンター」もタックス・ヘイブンと同じ意味、若しくは特殊なタイプとされることもあります。

 

OECDがいう「有害な租税競争」とは、平たくいえば税金も投資や事業のコストであり、企業も個人も税金が安いのに越したことはありませんので、会社も個人も低税率国や無税国に引きつけられ、それを見越して国家間の税の競争が起きることになります、という事です。

 

もっとも、日本政府もこうした税の競争に遅れると、日本企業の海外進出にさらに拍車がかかり、また外国企業からの投資減にもつながるため、平成26年度の法人実効税率38.01%から、平成29年度には29.97%に下げています。

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