改正前の「合算課税」はどのように定められていたか?
前回(関連記事『タックス・ヘイブン対策税制…部分合算課税の対象所得 その2』参照)までは部分合算課税制度の対象となる受動的所得の概要を説明してきました。今回は受動的所得がどのように損益通算されるかを解説します。
受動的所得の部分合算課税制度というのは、改正前の資産性所得の合算課税を修正見直したものと言えますので、改正前の合算課税がどのようであったかを見ておきましょう。
資産性所得の合算課税は平成22年度改正で導入されました。資産性所得は次のものでした。
(a)株式保有割10%未満の株式等の配当等に係る所得
(b)債券の利子に係る所得
(c)債券の償還による所得
(d)株式保有割合10%未満の株式等の譲渡による所得
(e)債権の譲渡による所得
(f)工業所有権又は著作権の使用による所得
(g)船舶又は航空機の貸付による所得
部分適用対象金額は、上の(a)から(g)の合計金額となりますが、それぞれの所得=収入-費用で、プラスの所得の合計になります。(a)から(g)で異なる所得においてプラスとマイナスの所得があった場合には、プラスとマイナスとを相殺、つまり損益通算はできないことになっていました。
また、少額基準等による部分適用対象金額の適用除外もあり、(1)各事業年度の部分適用対象金額の収入金額が1000万円以下(1000万円はプラスの所得についてのみ収入金額を合計して判定します)、(2)各事業年度決算による所得の金額のうち、部分適用対象金額のしめる割合が5%以下の場合には、部分合算課税制度は適用されませんでした。
(1)については、平成29年度改正で2000万円以下とされています。
平成29年度改正による部分適用対象金額は次のようになります。
A 非損益通算グループ所得の金額
①剰余金の配当等
②受取利子等
③有価証券の貸付の対価
④有形固定資産の貸付の対価
⑤無形資産の等の使用料
⑥異常所得
B 損益通算グループの所得の金額
⑦有価証券の譲渡損益
⑧デリバティブ取引に係る損益
⑨外国為替損益
⑩その他の金融所得
⑪無形資産等の譲渡損益
Bの⑦から⑪の個々の損益がマイナスの場合は、Bグループ内で損益通算します。しかし、Bグループの合計額がマイナスになったときは、ゼロとします。但し、このマイナスになった部分は7年間繰越ができます。
今回の改正の趣旨は以下とされています。
「改正前の制度においては、各所得類型に係る特定所得の金額は全てプラスの概念で整理され、各事業年度の部分適用対象金額の計算において損失額の繰越控除は設けられておりませんでした。今回の改正では、租税回避リスクを外国関係会社の所得や活動の内容によって把握するという方向性に沿って部分合算課税の対象となる所得の範囲及び合算対象所得の計算方法等の見直しが行われ、いわゆる所得種類別アプローチに基づく部分合算課税制度として整備され、通常、プラスもマイナスも生じえる所得類型である損益通算グループ所得の金額がマイナスとなった場合には、翌事業年度以降に繰り越して、損益通算グループ所得の金額から控除する部分適用対象損失額の繰越控除制度が設けられました(平成29年改正税法のすべて)。」
平成30年度の「部分合算課税制度」の改正の中身
部分合算課税制度については、平成30年度に改正がありました。
「A 非損益通算グループ所得の金額」の①剰余金の配当等について、一定の資源投資法人から受ける配当等は持株割合が10%以上(通常の法人は25%以上)の場合、合算課税の対象外となっています。
資源投資法人は日本が結んだ租税条約の相手国にあることが条件ですが、この租税条約の範囲から①「租税に関する相互行政支援に関する条約(税務行政執行共助条約)」と②「税源浸食及び利益移転を防止するための多数国間条約(BEPS防止措置実施条約)」が除かれました。
趣旨としては、国際的な二重課税防止のための租税条約には、情報交換規定や税務行政執行共助条約は含まれないからです。
ちなみに、日本経済新聞10月15日朝刊の「邦人の資産隠し調査海外口座、40万件情報入手国税庁」の記事にある「CRS(Common Reporting Standard):共通報告基準」は、OECDで策定されましたが、これは情報交換規定です。
この共通報告基準による自動情報交換を実施するために各国の国内法の整備が必要とされ、日本では平成29年税制改正で関連法律が改正されています。
古橋 隆之
古橋&アソシエイツ・税理士古橋事務所 代表