立地条件や自然環境など、地域の特性をとらえる
病院が地域密着型のビジネスモデルである限り、各地域の特性は見逃してはいけないファクターです。
一般に、地域の人口構成や疾病人口、疾患別のマーケットシェアなどを調べ、分析するのは医療コンサルタント会社が担当しますが、病院設計タスクチームがある設計会社はそれに加えて、病院の立地条件や地域の自然環境・社会環境などを考慮・予測し、病院という建物を形づくります。
病院設計にもっとも影響を与えるのは、病院が担う機能にもよりますが、やはり地域の患者さんの年齢構成です。その地域の患者さんは、どんな建物なら病院にアクセスしやすいか。それによって、求められる設計が変わってきます。
たとえば、バスの利用者が多い地域なら、病院の前にバスのほかタクシーのロータリーもつくる必要があります。自動車での移動が当たり前になっている地域なら、収容台数が多い駐車場が必要ですし、家族が送り迎えすることを考えると、玄関前に一時駐車して乗り降りするスペースをつくったほうがアクセスは容易です。
地域が「病院に求めるもの」を的確にとらえ、具現化
一方、気候・風土も、建物に大きな影響を及ぼす要因です。寒い地域、暑い地域、雪の多い地域、風の強い地域など、病院は自然環境に応じた建物でなければなりません。
ある北国の病院では、玄関前に巨大な風除室をつくり、ベンチを設置しました。すると、病院の開院前から高齢の患者さんたちが風除室に集まり、井戸端会議が始まります。その病院ではセキュリティのため玄関こそ施錠していますが、風除室は開院前からヒーターをつけて暖房し、患者さんを迎え入れます。
病院側からすれば利益を生まない巨大なスペースに維持費をかけることになるわけですが、患者さん目線で病院設計を実現した一例といえるでしょう。
このような例に限らず、病院は「地域の人々が集まる」という特性がある施設です。しかし、多くの地域ではいくつもの病院が共存しています。そのなかで、地域の人々にとって自院がどのような位置づけにあるのか、何を求められているのかを的確にとらえ、分析し、その答えを形にできる設計でなければなりません。