融資、土地…病院建設の課題は多い
度重なる診療報酬の改定、長引く不況と高齢者医療制度の改正、医師不足、看護スタッフの定着率の低下、高額化する先端医療機器……。日本の医療現場が抱える厳しい環境は、様々なメディアで語られてきました。
以前は優良な融資先として病院をとらえていた銀行も、いまでは水面下で病院の格付けを下げ、「以前のように簡単に貸してくれなくなった」「詳細な事業計画書を要求された」といった声も病院経営者から聞こえてきます。
設計会社に寄せられる相談でも、「建物が老朽化・狭隘化し、郊外のもっと広い敷地に移転して新築したいが、現在の土地が思うような価格で売れず、結局、現状の敷地で建替えるしかない」というケースが増えました。
設計する立場からいっても、診療を続けながら限られた敷地で解体・新築・改修を繰り返すよりも、広く新しい土地で自由に設計図を引き、工事を進めるほうが楽であることは言うまでもありません。
しかし現状がそれを許さない以上、設計者として知恵を絞り、良質の医療を実現できるハードウエア(建物)を、いかに病院のもつ建築予算で実現し、かつコストを削減しながら建てていくのか、考える局面を迎えています。
経済的制約があるからこそ「設計力」が試される
病院を建築する際に必要な事業費は、以下の図表の通りです。
[図表]病院建設事業費の構成要素
土地取得費を除けば、建物の建設費が大きな部分を占めるのは従来通りですが、近年の傾向として、高度化する医療機器や情報系のコストが膨らみつつありますので、事業計画の初期段階でそのことを踏まえた事業費の配分と調整が重要です。
また、建設費用を概算で把握するには、規模の把握が前提となります。面積規模は病床数や病院の特徴によって異なりますし、機能グレードにより建設単価も大きく変わります。
さらには、竣工後、病院経営を維持するには、こうした事業費だけでなく様々なランニングコストがかかるのは言うまでもありません。そのランニングコストは、設計の仕方によって大きく増減されるのです。
病院設計におけるコスト削減とは、単に建物・設備のグレードを下げたり、質を落としたりすることで達成できるものではありません。医療の質を高め、患者さんの療養環境を向上させながらコストを削減するには、設計者に「技術」が必要です。
病院建築の成否、並びに病院運営の効率化には、設計者たちの技術力が大きく関係しているといっても過言ではないのです。