前回に引き続き、特別清算の手続きの流れについて解説します。今回は、協定型と和解型の違いを踏まえたうえで、特別清算開始の申し立てについて見ていきましょう。

協定型と和解型では予納金の額も異なる

特別清算には、協定型と和解型のふたつの方法があります。特別清算開始の申立てに対して、債権者の3分の2以上の同意を得た協定によって清算する場合を、協定型といいます。同じように債権者の3分の2以上の同意があり、個別の和解によって清算する場合を、和解型といいます。

 

特別清算開始の申立てをすることができるのは、債権者、清算人、監査役および株主ですが、債務超過の疑いがある場合には、清算人である取締役本人が特別清算開始の申立てをしなければなりません。

 

この申立ては、清算人の代理人である弁護士が裁判所に対して「特別清算開始申立書」を提出して行います。その際、裁判所には手数料の2万円と、債権者への最低限の弁済金を確保するための予納金を支払います。予納金の額は、債権額や特別清算の方法が協定型か和解型かによって異なります。

 

たとえば、東京地方裁判所の場合、負債が1億円以上から5億円未満の会社の予納金は200万円です。しかし、申立て時点で、債権者から申立てすること自体についての債権総額の3分の2以上の同意を得られていれば、予納金は、協定型の場合5万円、和解型の場合は8598円となります。

 

申立ての段階で債権者との間で協定が成立する十分な見込みのある場合には、特別清算がとん挫し、破産に移行することが少ないことから、予納金を低く設定しているのです。このため特別清算開始の申立てを行う場合、事前に債権者と調整し、債権者の同意を得ておくことはとても重要です。

 

なお、特別清算は裁判上の手続のため、各地方裁判所によってその運用が異なるので注意してください。裁判所の費用は各裁判所によって異なります。また、その運用に対する厳密さも裁判所によってさまざまです。依頼する弁護士によく説明を受けていただきたいと思います。

特別清算開始の申立てが却下されるケースとは・・・

【申立てに必要な書類など】
特別清算開始申立書には、清算する会社の事業内容、資産と負債の状況、特別清算開始の申立てに至った経緯などを記載し、次のような添付書類とともに提出します。

 

清算株式会社の登記事項証明書、解散時の清算財産目録と清算貸借対照表、清算貸借対照表などに関する株主総会の承認決議の議事録写し、直近2期分の貸借対照表および損益計算書、解散時の株主名簿、債権者名簿、債務者名簿、債権申出催告の官報写し、特別清算申立てに対する債権者の同意書、清算人の履歴書、定款、事業譲渡などをしていた場合には、事業譲渡契約書または会社分割契約書写し、スケジュール表、清算人が報酬を放棄する場合は報酬放棄書。そのほか、弁護士による申立ての場合は、弁護士への委任状なども必要です。

 

これだけ並べると用意するのが大変そうに見えますが、弁護士のサポートを受ければ大丈夫です。弁護士はたくさんの書類を準備するコツも知っています。基本的には、一度に全部準備しようとしないで、こつこつと少しずつ集めていくことが大事です。

 

裁判所は、提出された資料を審理して、その会社が特別清算開始の要件(清算の遂行に著しい支障をきたすべき事情または債務超過の疑いがある場合)を満たしているかどうか判断し、1週間ほどで特別清算開始の命令を発令します。

 

もっとも、特別清算開始の申立てをしても、場合によっては却下されることもあります。それは主に次のようなケースです。

 

●申立ての費用が支払われていない・・・清算する会社の資産が不足して予納金などの費用が支払えない場合には、特別清算開始の申立ては却下されます。


●特別清算によって清算を結了する見込みがない・・・税金・社会保険料などの優先債権は免除されることはないため、これらを弁済するだけの資産がないと判断された場合には、清算を終了する見込みがないものとして却下されます。賃金・退職金などのように一般の先取特権のある権利も同様です。また、主要な金融機関などの債権者が強固に反対を表明している場合にも却下されます。


●特別清算によることが債権者の一般の利益に反するとみられる・・・特別清算によるよりも破産法による破産をしたほうが債権者への弁済率が上がることが明らかな場合には、特別清算が債権者の一般の利益に反すると判断されて却下されます。


●特別清算開始の申立ての目的が不当である・・・関係者への嫌がらせや、資産の隠匿など不当な目的のために申立てられていると判断された場合にも、裁判所は申立てを却下することがあります。

 

いずれも金融機関との事前調整がうまくいっている場合には問題になっていないはずです。逆にうまくいっていない場合には、前記のいずれかが問題となることが多いでしょう。裁判所が特別清算開始の申立てを却下した場合には、清算会社に破産手続開始の原因があれば、破産手続開始の決定が下ります。

本連載は、2015年8月26日刊行の書籍『赤字会社を驚くほど高値で売る方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

赤字会社を驚くほど高値で売る方法

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山田 尚武

幻冬舎メディアコンサルティング

アベノミクスにより日本経済は回復基調にあるといわれるものの、中小企業の経営環境は厳しさを増しています。2013年度の国税庁調査によると、日本の法人約259万社のうち約7割にあたる176万社が赤字法人となっている一方で、経…

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