前回は、エンダウメント=「米国名門大学の基金」であると説明しましたが、今回は、そのエンダウメントがどのようなポートフォリオを組んでいるのか、具体的に見ていきましょう。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

トップ10の大学の運用資産は、それぞれ「1兆円」超

今回は、米国大学財団であるエンダウメントがどのようにポートフォリオを組んでいるのか見ていきたいと思います。

 

前回は、エンダウメント全体の運用資産についてお話ししましたが、各主要大学がどのくらいの資産を運用しているかイメージを持っていただくため、まずは以下の図表1をご覧ください。トップ10の大学の運用資産はそれぞれ1兆円を超えているのが分かると思います。

 

[図表1]米国大学エンダウメント トップ10の運用資産

(出典:全米大学実務者協会(NACUBO)より、GCIアセット・マネジメント作成。)
出典:全米大学実務者協会(NACUBO)より、GCIアセット・マネジメント作成。

 

さて、こうした巨額の運用資産を運用するエンダウメントの基本的な投資スタンスは分散投資、しかもグローバルな分散投資です。エンダウメントは米国内だけでなく、あらゆる投資機会をとらえてグローバルに運用します。

 

 

一例として、ハーバード大学エンダウメントのポートフォリオをご覧ください。

 

[図表2]ハーバード大学エンダウメントのポートフォリオ

(出典:Harvard Management CompanyよりGCIアセット・マネジメント作成。時点:2016年6月末)
出典:Harvard Management CompanyよりGCIアセット・マネジメント作成。時点:2016年6月末

 

ハーバード・エンダウメントの上場株式への配分は全体で29%ですが、その内外国株への投資は合計18%程度と自国マーケットの米国株よりも多く配分しています。また、この低金利下リターンが限られている債券への配分は13%程度と少なめです。

 

また、オルタナティブ投資(=代替投資。上記円グラフでは未公開株、絶対収益型ヘッジファンド、不動産、天然資源)は約60%にもなり、株式や債券といった伝統的資産よりも多く組み入れを行っています。

 

オルタナティブ投資の組み入れ比率はエンダウメントの運用資産が大きければ大きいほど高まる傾向にあります。

 

一般に、エンダウメントはその運用収益の5%を大学の財務に拠出しなければなりません。また、インフレ(年間2%程度)にも対抗する必要がありますので、目標年間リターンは8%前後になるのが通常です。

 

このリターンを達成するために様々な資産を組み入れ、ポートフォリオ全体のリスク・リターン値を向上させながら安定的な運用成果を追求しているのです。

オルタナティブ投資への資産配分が大きい理由

エンダウメントではオルタナティブ投資がポ-トフォリオ全体の5割以上を占めていますが、オルタナティブ投資に重点を置くのは次のような理由からです。

 

(1)伝統的資産(株式・債券)と値動きの相関性が低く、オルタナティブ投資を組み入れることで、ポートフォリオ全体のリスク・リターン値を改善することが可能。言い換えれば、リスク値(値動きの大きさ)を抑制しながら、より高いリターンを追求することができる。

 

(2)一般に、オルタナティブ投資は流動性(換金性)が低く、流動性を犠牲にすることで高いリターンが期待できる流動性プレミアムが得られる可能性(一方、現在では流動性も確保した“リキッド・オルタナティブ”<Liquid Alternative>も注目されています)。

 

 

(3)既述のようにオルタナティブ投資には、未公開株、絶対収益型ヘッジファンド、不動産、天然資源といった資産があります。投資家は伝統的資産のみの組合せから、目標リスク・リターンに合わせた様々なオルタナティブ投資を組合せることが可能。

 

ハーバード大学エンダウメントのポートフォリオを見ていきましたが、最近同エンダウメントは、“Sustainable Investment”(持続可能な投資)という長期投資の新たな局面を切り開いています。ハーバード大学が目指す長期投資とは、次の考え方を踏襲したものになってきています。

 

(1)ESG投資(環境・社会・企業統治)

(2)株主権利の行使(特にESG関連)

(3)他エンダウメントや投資家との協働

出典:Harvard Management Company

 

こうした長期的なアプローチを採用することで、ハーバード大学エンダウメントは自身の運用ゴールが達成できると考えているのです。

 

次回は、エンダウメントのパフォーマンス状況について説明いたします。

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