「借入金=返すお金」という意識を忘れない
BS経営(現在動かせるお金がどのくらいあるか)を基盤とした経営に徹しながら、さらに徹底して資金ショートを防ぐためには、次の2点にも留意します。
①基本的には、運転資金となる現金・預貯金はたくさんあるに越したことはない。金融機関から借りられるときには、借りられるだけ借りたほうがよい。
②ただし、「お金に色」をつけておくこと。
お金にはもともと、「色」はありません。これは、そのお金が、資本であろうと、事業の売上金であろうと、借入金であろうと、お金はお金。それぞれの価値は変わらないということです。そして基本的には、事業を回していくためのお金、運転資金が潤沢であればあるほど、大きい利益をあげることができます。
つまり、売上を伸ばすためには、借金であってもお金はあったほうがよいのです。
そこで私も、社長さんたちには「お金は借りられるだけ借りたほうがよいですよ」とよく申し上げています。しかし、多くの社長さんたちが犯しがちな過ちがあります。それは、お金には色がついていないだけに、資本金や売上金と、借入金、これらすべてを「同じ種類のお金」と考えてしまうことです。
資本金や売上金と、借入金、これらには決定的な違いがあります。それは、「借入金は返さなければならないお金である」ということです。
そういうと、「そんなこと、当然のことじゃないか。今さらなにを」と思われるかもしれません。しかし、実際に、私のところにいらっしゃる社長さんたちも含めて、この意識が薄れてしまっている方が多くいるのです。
負のスパイラル「借入金返済のための借入金」に注意
手元に残る利益を計算するときには、売上高から諸々の経費を差し引いて、さらに、借入の返済金を差し引かなければなりませんが、これを忘れてしまうのです。そして、資金繰り表を作成してはじめて、この現実に気づく方も少なくありません。
売上はだいたい一定水準を保っているし、月々の支払いもほぼ一定。それなのに、なぜか繰越残高が毎月、毎月、減っている。なぜだろうとよく見れば、借入金の返済額の分がそのままマイナスになっている―そんなケースが非常に多いのです。
これに初期段階で気づけば、なんとか営業努力で売上を伸ばし、フォローするということもできるでしょう。しかし、借入金の返済によって繰越残高がどんどん目減りしていることに〝ギリギリ〞になるまで気づかず、あるいは手を打たず放置してしまった結果、「借金を返すために借金をする」はめになってしまうケースもまた、多いのです。
こうして一度でも借金を返すために借金をしてしまうと、さらにその「借金のための借金」を返済するために、また借金……という、アリ地獄のような〝借金の連鎖〞に陥ってしまうのがオチです。
こうなるともはや、売上アップだけでこの状況から抜け出すのは、かなり不可能に近いでしょう。単純に計算してみても、たとえば、毎月100万円の返済があった場合、返済額は年間で1200万円にもなります。この1200万円をきっちり返すためには、最低でも税引き後の利益として1200万円が必要なのですが、それには、コンスタントに税引き前で2000万円の利益を出し続けなければなりません。
この数字を見ても、ただ売上をあげているだけでは、アリ地獄からの脱出はとうてい無理なことがわかると思います。
しかし一方で、このような場合に、第4章でお話しする「リスケジュール」、通称「リスケ」によって、当座の手当てをしながら態勢を整え、最終的にはアリ地獄からの脱出に成功し、事業を軌道に乗せることができたという例は、枚挙にいとまがありません。
いずれにしても、このようなアリ地獄にうっかり滑り落ちることのないよう、借入金は「現実に動かすことのできるお金」ではあっても、「現実にお金がある」という意味での「お金」からは、外しておかなければならないのです。