今回は、「資金運用」と「本格的な投資運用」の決定的な違いについて考えます。※本連載は、さわかみホールディングスの代表取締役で、日本における長期運用のパイオニアとして知られる澤上篤人氏の著書、『これが長期投資の王道だ』(明日香出版社)より一部を抜粋し、株式「長期投資」の極意を紹介します。

毎年の成績を追いかけざるを得ない機関投資家

投資家顧客があってこその機関投資家ビジネスでは、毎年しっかり成績を出していくのが絶対的な課題となる。成績が悪いと顧客資産を失ってしまうから、彼らは毎年の成績を出そうと汲々する。それを「資金運用」というが、第1部で詳述した通り(書籍を参照)。

 

たとえば年金の運用。年金は大切な資金だから、10年20年たって運用がお粗末だったでは済まされない。やはり、どのような運用をしてくれていて、どのように成績がきちんと積み上がっているかを、毎年チェックしなければならない。

 

毎年きちんと成績を出そうとすると、5年あるいは10年くらいかけて、じっくり運用成績を積み上げようなんて考えは許されない。すなわち、われわれ長期投資家の出番はない。

 

本来、年金運用は10年20年後の給付のため運用蓄積の最大化を期待すべきもの。つまり、長期投資を最も必要とする資金である。ところが現実には、1年毎の成績に追いまくられているのだ。まともな長期投資などまったくできていない。

 

とはいえ、機関投資家にとっては年金など顧客資金あってのビジネスである。どうしても毎年の成績を追いかけざるを得ない。つまりは、「本格的な投資運用」からほど遠い、単なる資金運用の域から脱せられない悪循環となっている。

 

その結果、機関投資家は短期のディーリング運用のプロとして腕を磨くことはあっても、本格的な株式投資からは遠く離れていくことになっていった。これが機関投資家運用の実体である。もっとも彼らは表向き、長期視野に立った運用などを謳ってはいるが。

資金運用は市場でのマネー転がしにすぎない!?

この40年ほどで、機関投資家化(機関化)現象は世界に定着した。最近では、機関投資家という運用のプロがやっている株式のディーリング投資こそが、一般投資家も学ぶべき株式投資と受け取られてしまっている。

 

やっかいなことに、機関投資家は巨額の資金を運用しているから、マーケット全体への影響力も大きい。それで、機関投資家による株式の短期ディーリングをもって、株式投資とみなされるようになってきたわけだ。

 

しかし、資金運用はしょせん市場でのマネー転がしにすぎない。本格的な長期の投資運用とは別のものである。

これが長期投資の王道だ

これが長期投資の王道だ

澤上 篤人

明日香出版社

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