毎年の成績を追いかけざるを得ない機関投資家
投資家顧客があってこその機関投資家ビジネスでは、毎年しっかり成績を出していくのが絶対的な課題となる。成績が悪いと顧客資産を失ってしまうから、彼らは毎年の成績を出そうと汲々する。それを「資金運用」というが、第1部で詳述した通り(書籍を参照)。
たとえば年金の運用。年金は大切な資金だから、10年20年たって運用がお粗末だったでは済まされない。やはり、どのような運用をしてくれていて、どのように成績がきちんと積み上がっているかを、毎年チェックしなければならない。
毎年きちんと成績を出そうとすると、5年あるいは10年くらいかけて、じっくり運用成績を積み上げようなんて考えは許されない。すなわち、われわれ長期投資家の出番はない。
本来、年金運用は10年20年後の給付のため運用蓄積の最大化を期待すべきもの。つまり、長期投資を最も必要とする資金である。ところが現実には、1年毎の成績に追いまくられているのだ。まともな長期投資などまったくできていない。
とはいえ、機関投資家にとっては年金など顧客資金あってのビジネスである。どうしても毎年の成績を追いかけざるを得ない。つまりは、「本格的な投資運用」からほど遠い、単なる資金運用の域から脱せられない悪循環となっている。
その結果、機関投資家は短期のディーリング運用のプロとして腕を磨くことはあっても、本格的な株式投資からは遠く離れていくことになっていった。これが機関投資家運用の実体である。もっとも彼らは表向き、長期視野に立った運用などを謳ってはいるが。
資金運用は市場でのマネー転がしにすぎない!?
この40年ほどで、機関投資家化(機関化)現象は世界に定着した。最近では、機関投資家という運用のプロがやっている株式のディーリング投資こそが、一般投資家も学ぶべき株式投資と受け取られてしまっている。
やっかいなことに、機関投資家は巨額の資金を運用しているから、マーケット全体への影響力も大きい。それで、機関投資家による株式の短期ディーリングをもって、株式投資とみなされるようになってきたわけだ。
しかし、資金運用はしょせん市場でのマネー転がしにすぎない。本格的な長期の投資運用とは別のものである。