感覚に依存する裁量トレードで利用したい「ツナギ」
単純化こそプロの技、奇をてらったような必殺技はない──これが、前項で伝えようとした大切なメッセージだ。このことから考えて、ツナギも必要最低限にとどめたい。
ツナギとは、両建てを利用して値動きの中を“泳ぐ”技術だ。まずは、その趣旨を説明しよう。
現実にありそうな場面を想像してほしい。現物で1万株買った、見込み通りに上昇してきた、売り逃げようか、ねばろうかと迷う局面になった……さて、どうするか?
急いで情報を集めても、未来の株価を当てることはできない。日経平均の値動きと比較しても、何もわからない。相手が評論家だけでなく、実践家であっても、他人に意見を求めたらアウトだ!
数式的な判断基準を利用していれば、それに従うだけだが、もっぱら感覚に依存する裁量トレードでは、自分の感性が頼りの綱だ。だが、いったん迷い出すと、その感性自体が頼りにならない。こんなときに利用できるのが、ツナギのポジションである。
買っている場合は、その買い玉を維持したままカラ売りを行う。1万株持っている状態で、例えば千株をカラ売りするということだ。差し引き9千株の買いになるが、それほど単純な引き算ではない。
カラ売りの「イヤな感じ」と「良いポジション」
具体的な数字を入れて考えてみよう。
平均250円で1万株買い、350円まで値上がりしたとする。平均250円の買いポジション1万株が維持されたまま、350円のカラ売りポジションが新たにできたら、1万株のうち千株を手仕舞いして9千株に減らすのとは異なる感覚になるはずだ。
「250円で1万株持っている」という認識はそのまま維持され、緊張感も継続する。それとは別に、「350円で千株売った」事実が、新たな基準として追加されるのだ。
それこそ感性の問題だから、しゃくし定規に対応方法を示すのは難しいが、ひとつの例を出そう。
千株のカラ売りポジションについて実に“イヤな”感じがしたら、「相場は強い」「まだ上がる」と判断できる。
逆に、千株のカラ売りが“良いポジション”になっていきそうなら、「先行きはよくないから積極的に利食い売りを進めよう」とか、「現物売りを進めながらカラ売りポジションを増やし、ユルユルとドテン売り越しを狙うか」といった発想に至る。
いってみれば、買いポジションを抱えた状態で、(間接的に)対立するカラ売り筋の正直な意見を聞いてみるようなものだ。
「カラ売りしていて不安ですか?じゃあ、まだ上ですね」と考えるか、「カラ売りが心地いい?追撃売りしたい?そうか、相場は弱くなってきたんですね」と判断するか、これを“自分”というひとりの人間の内部で行う面白い取り組みがツナギだといえる。
ちなみに、買い戦略の中にカラ売りを入れるのが「売りツナギ」、カラ売りのツナギは「買いツナギ」だ。好みなどは別として、価格変動によって損益が生じる“ポジション”、自らの意思で自由に動かすことのできる“ポジション”として、売りも買いも区別せず同じように考えるのがプロの発想だ。