「過剰な情報」に翻弄されてはいけない
現代は情報過多だといわれる。テレビがどんどん普及した時代にも、外部から次々と大量の情報がなだれ込んでくる状況を問題視する声があったようだが、インターネットの普及によってさらに加速し、整理する時間を与えられないほど、情報の量とスピードが増した。
だが情報の収集が悪いというのは、いささか短絡的な見解ではないか。オギャーと生まれたときから自分の考えを持っている人はいない。どんな人でも、外部からの情報を基に自己形成を行ってきたはずだ。著名な芸術家だって、最初は先人たちの模倣から始め、次第に自分自身のものをつくり上げていったにちがいない。
トレードの世界は、インターネットが普及するずっと以前から、ある意味、情報過多だった。しかし情報は独りで歩いてくることなどないので、実は情報過多なのではなく、情報をインプットする本人の姿勢が過剰な情報を招くのである。
端的にはカネがほしいのだが、つい「何を買えばいいの?」「どれが上がるの?」とばかりに急いでしまう。株式市場にはそんな人が多い、つまり情報の需要が高いから、業界はそれに対応する。
証券会社の人間だって、本音では「もっと落ち着いて……」と言いたい。だが、それを口にしたら、情報を求める投資家は「なにネムたいことを言ってるの?」と他社に移ってしまうから、良い結果が出るように努めながら興味を引く情報を提供するのが限界だ。
情報全体が「今すぐ儲かる」に傾き、投資家も同じ意識をもって受け取るから、二重に方向性がゆがむ。
読者も、そして私も、できればすぐに儲けたい、可能ならばラクして儲けたいと思う。それはそれとして、前進するエネルギーにはつながる。だが、誤った方向に進むのがこわい。前進するエネルギーは、方向を決めてはくれない。視野を広く保ち、落ち着いて考える姿勢が“方向舵”である。
入手した情報を「整理し、書き留め」自分流に仕上げる
「この銘柄が上がります」なんて情報には、何の価値もない。
例えば、現在値が300円の銘柄があるとする。なぜ300円という値段がついているか──真剣に「300円で売りだ」と考えている人がいる一方で、「300円で買いだ」と確信している人が存在している、両者のバランスが取れているから現在300円なのだ。多くの人が求める“秘密”が入り込む余地はないのだ。
その銘柄(企業)の好材料を調べればいくらでも出てくるし、悪材料を求めれば、やはり嫌というほど出てくる。市況解説を書く経済記者は、その時々の狙いによって開ける引き出しを変えているだけだ。
こういった原則を十分に理解したうえで、情報処理のポイントとすべきキーワードは、「アウトプット」である。
脳科学者の茂木健一郎氏も著書で、現代の情報過多に警戒しろというメッセージを発している。インプットが多すぎるから、アウトプットを増やせ、と。そして、その先の説明にハッとした記憶がある。
茂木氏は、情報を手に入れることだけでなく、手に入れた情報を「頭の中で考える」こともインプットだと説明していた。情報をゲットして必死に考える……これで十分だと思いがちだが、茂木氏は著書で、しっかりアウトプットせよと述べていた。
塾の勉強でも、自己啓発的なセミナーでも、アウトプットを大切にしていると思う。林投資研究所の理念を読みやすくまとめたオリジナル書籍『相場技法抜粋』(林輝太郎著)の第1項は、「勉強のノートを作ろう」という見出しだ。「学校で教わっておきながら、実社会に出ると実行しないが、断片的な情報をまとめるためにノートが果たす役割は大きい」と書かれている。
相場の本を読み、その内容を誰かに話すのもアウトプットだ。だが、多くの投資家は、議論の相手を見つけるのに苦労する。手法を考えて深い話をしようとしても、「何が上がるか教えてよ」などと期待外れのボールが返ってくるのがオチだ。
ノートを作り、考えたこと、疑問に感じたこと、本でもインターネットでも入手した情報を整理して書き留めると面白い。文字にする過程で相当に整理され、独自のアイデアに変化する。
その文字を見て考え(インプット)、その続きを書くこと(アウトプット)で、情報は浄化され、進化する。こうして、完全にオリジナルの“自分流”が出来上がっていくはずだ。