事業会社の立ち上げより、はるかに楽なクリニック開業
本書は一貫して、クリニックにも「経営感覚」が必要だとの立場を取っています。しかし、実際のところ、医師によるクリニックは、事業会社を立ち上げることよりもはるかに楽で、経営が成功する確率が高いのです。
というのも、一般の事業会社を起業する場合には、その会社で扱う商品やサービスが本当に売れるかどうかは、やってみなければわかりません。もしかすると、まったく売れなくて、数年で倒産する可能性もあります。
医師の開業の融資条件はゆるく、貸し渋りも滅多にない
しかし、医師によるクリニックは、確実に一定数の患者を集めることができます。風邪をひかない人はいないし、病気や怪我と一生無縁という人もいないからです。人は、生きている限り、必ず一定の確率で病を患います。
そのため、クリニックを開業しさえすれば、少数でも患者は確実に集まります。そのため、医師が開業したいといえば、多くの人が手助けをしてくれます。ほぼ確実に成功するであろうとわかっている企画に、乗らない手はないからです。
その筆頭となるのは、金融機関(銀行)です。医師の開業に際しては、金融機関から融資を受けることがほぼ必須ですが、融資の条件はゆるいもので、貸し渋りにあうことも滅多にありません。
何の資格もない一般人が起業したいといって金融機関を訪れても丁重にお断りされるだけですが、医師が開業したいといって金融機関を訪れれば、確実に相談に乗ってもらえるはずです。
だからといって、おごってはいけません。金融機関が、医師の開業の相談に乗るのは、それが彼らのビジネスになるからです。銀行をはじめとする金融機関は、お金を貸して、手数料と利息を取るのが商売です。言葉を選ばずにいえば、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に出てくるシャイロックと同じ金貸しです。
お金を貸して、それが利息とともに返ってくる相手であれば、金融機関にとっては大切なお客様ですから、下にも置かぬもてなしをするのは当然です。
同様に、医薬品卸売会社や、医療機器のリース会社なども、無償で開業の手助けをしてくれますが、それは開業後に彼らの商材を買ったり使ったりしてくれることを期待しているからです。いわば、ビジネスの営業として手伝ってくれるのです。
このように、開業を試みる医師に対しては、引く手あまたで多くの人がよってきます。もちろん、ビジネスとはWin-Winの関係を築くことですから、それを否定するわけではありません。金融機関であれ、医薬品卸売会社であれ、リース会社であれ、お互いに納得してメリットのある取引ができるのであれば、それに越したことはありません。
ただし、彼らにいわれるがままになって、自分の不利になるような条件を呑んだり、不本意な選択を迫られたりすることのないよう、気をつけてください。