債権者と裁判所で手続きが進み、債務者は置き去りに
住宅ローンを支払えなくなったからといって、必ずしも競売にいたるわけではありません。「返済が破綻したのだから他に道はない」と考える人が少なくありませんが、競売は最悪の結末といえます。
不動産を売却したり債務を清算したりするときには通常、いろいろな交渉を行います。その後の暮らしがしっかりと成り立つよう、立ち退きの期限や引っ越し費用の提供、物件売却後の残債をどうするかなどについて交渉を進めるのが一般的な手続きです。
ところが競売になると、債権者と裁判所が事務的にどんどん話を進めてしまいます。債務者が債権者や裁判所と話をする機会はほとんどありません。家を失った後の生活を維持できるよう、工夫する余地がほとんどないのです。
競売物件は市場価格の6~7割程度で売却される
売却価格が安くなる点も競売の大きなデメリットです。不動産は工夫することにより高値での売却が可能ですが、競売になると裁判所が事務的な流れで売却手続きを進めるため、そういった工夫をすることができません。
競売物件には一般の売買にはないリスクがあるため、買い手の側も高値をつけられないのです。通常の売買なら買い手は購入を決める前に物件の内覧をすることができます。室内の様子を目で見て確認できますが、競売の場合には裁判所の執行官以外は物件の中に入ることができません。
保証がつかないことも競売物件に付随する大きなリスクです。一般の建物には瑕疵担保保証など売り手の保証がつきますが、競売物件には一切保証がありません。そのため代金を支払ってから欠陥に気づいても買い手は自己責任で対処するしかないのです。
こういった事情があるため競売物件の売却価額は市場価格の6~7割程度にとどまります。残債が多い場合には、売却代金で清算できず、自宅を失った上に借金が残ってしまいます。
競売後の自宅は落札者のものなので、もちろん住み続けることはできません。本書『住宅ローンが払えなくなったら読む本』の第3章でも紹介しますが、競売を避けられれば、そのまま住み続けられるケースも少なくありません。ところが競売における落札者の多くは、リフォームや解体によって再販売を目的とする不動産事業者なので、そういった対応を求めることはほぼ不可能です。
家を明け渡すための引っ越し費用も、競売の場合は得ることができません。売却代金は裁判所から債権者に配当として渡され、もとの所有者の生活再建資金として支払われることはないのです。
所有者・債務者の氏名や所在地などは全て公開に…
ローン破綻した人にとってはさらに、情報流出による精神的な苦痛も多大です。
情報流出は主に二つの段階を経て進みます。最初に競売の情報が公開されるのは「配当要求公告」という裁判所の手続きによります。競売を申し立てた人だけでなく、その他の債権者も平等に配当を受け取れるよう、裁判所が広く競売になる物件の所有者や債務者の氏名、所在地などを公開するのです。
さらに競売の日取りが決まると、裁判所は競売参加者を募るために物件に関する詳細な情報を公開します。不動産としての評価や差押え、諸権利関係や使用状況、外観や屋内の写真なども広く一般に公開されてしまうのです。この情報は不動産競売情報サイト「 IT(Broadcast Information of Tri-set System)」にも掲載されるので、多くの人に住所が特定され、室内の状況まで見られてしまいます。
この情報公開により、物件に関心を抱いた不動産事業者が現地調査を実施することもあります。住まいの周辺を調べられたり、場合によっては近隣住民に対する聞き取りや、競売への参加勧誘チラシの配布が行われたりと、情報は広く拡散していきます。