破産に比べると利用件数の少ない特別清算だが・・・
赤字会社の清算方法として、すぐに会社をたたんで廃業してしまうのではなく、GOOD部門はできるだけ事業譲渡して売却代金を債務の支払に充て、残った「箱=会社」を特別清算するという方法を本連載ではおすすめしてきました。
ここからは、BAD部門とともに残された株式会社の特別清算の手続について解説していきましょう。なお、特別清算は株式会社のみに認められる方法ですが、有限会社についても、社員(株主)総会の特別決議により、株式会社に商号を変更すれば特別清算を利用することができます。
一般に赤字会社の清算といえば、破産を考える経営者が多いと思います。司法統計年報(2011年から2013年)によれば、日本全国の地方裁判所での特別清算の利用件数は年間約300件ほどです。これに対し、法人の破産は約1万件で、法人の破産に比較すると特別清算の利用件数は圧倒的に少ないのが現状です。
しかし、一定の適用条件に該当すれば多くの赤字会社で特別清算が可能なため、もっと広く知られ、利用されてもよい方法だと思います。
特に、金融円滑化法およびその終了後の政府の政策パッケージ(2012年4月20日発表)により、暫定リスケでつないでいるような会社についても、金融機関への返済が抑えられていることから、公租公課、給料および取引先への支払がきちんとなされていることが多いものです。このような場合、会社の債権者は数社の金融機関に絞られており、後に述べる特別清算の適用条件のひとつを満たしている場合が多いのです。
特別清算を利用するための4つの適用条件
この適用条件とは、第一に、株主の意見がまとまって株主総会の特別決議で解散を決議できることです。
特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席を得て、かつ出席した株主の3分の2以上の同意がある株式会社における決議をいいます。
筆者が経験した案件で、同族会社の株式を主要取引先が取得して資本参加した株式会社が、その後、事業不振で特別清算をすることになったものがあります。この場合、同族も一定の株式数を保有していたため、株主総会で多数派を形成するためには、同族も説得しなければならず、大変苦労しました。
第二に、債権者が数社の金融機関に絞られていることが望ましいということです。特別清算の場合、会社と債権者との間の債権の権利変更についての合意(弁済計画:これを難しい言葉で「協定」といいます)。が必要です。協定を成立させるためには、債権者集会に出席した議決権者(債権者)の過半数の同意かつ出席した議決権者の議決権総額の3分2以上の同意が必要です。
第三に、税金、社会保険料などの公租公課の滞納がないことです。また、従業員の給料・退職金なども一般の先取特権を有しており、同様です。
これらは優先債権であることから、会社は協定の枠外で随時弁済する必要があり、これらの支払ができないようであれば、一般の債権者との間での協定が成立したとしても、公租公課の支払により特別清算はとん挫することになるからです。裁判所に特別清算開始の申立てをする際にも、公租公課や給料・退職金の未払がないか確認されます。
第四に、会社の従前の決算について重大な粉飾などの不正がなく、かつ会社の清算中ないしその直前に、財産の隠匿や親族・一部の取引先債権者に対する偏頗(へんぱ)弁済がなされていないことです。これらが特別清算において発覚すれば、金融機関などの債権者は会社が不誠実であるとみなし、特別清算における会社財産の説明も信用できないと考えることから、協定案に同意することはありません。
次回は、特別清算の具体的な流れについて見ていきます。