「自己居住用の床面積が2分の1以上」が控除の条件だが…
マイホームの税制に詳しい方なら、「賃貸併用住宅をマイホームにするのはいいけれど、それでは住宅ローン控除の適用を受けられなくなるのでは」というご心配もあるかもしれません。結論から言えば、心配ご無用です。賃貸併用住宅でも自己居住用の住戸に関しては、住宅ローン控除の適用を受けられる可能性があります。これが第四のメリットです。
住宅ローン控除とは「住宅借入金等特別控除」と呼ばれる所得税控除の仕組みのことです。一定の条件を満たすマイホームを、住宅ローンを組んで購入して一定の時期までに居住したときには、年末時点でのローン残高の1%に相当する金額を、その年の所得税額から差し引くことができるというものです。しかもその控除は、向こう10年間にわたって適用されることになります(2017年5月時点)。この仕組みを利用しない手はありません。
サラリーマンの場合、所得税は通常、源泉徴収としてすでに給与から差し引かれているはずです。つまり、所得税は勤務先を通じて納付されます。しかしその場合、本来なら控除できる分まで先に源泉徴収されてしまっているので、住宅ローン控除の適用を受けることができるサラリーマンは、確定申告や年末調整といった手続きを通じてその分を取り戻す必要があります。いわゆる還付を受けるのです。節税の手段が限られているサラリーマンにとっては、ごく一般的な節税のための手段です。
問題は、住宅ローン控除の適用を受けることができるか否かを定めた要件です。その中には、マイホームそのものに関する要件も定められています。例えば、床面積が50平方メートル以上で、床面積の2分の1以上が自己居住用という要件です。
ここで一つ、気を付けたい点があります。賃貸併用住宅ですから、建物には当然、自己居住用の住戸も賃貸用の住戸もともに用意されています。ただ今書いたように、住宅ローン控除の適用が認められる要件には、床面積の2分の1以上が自己居住用という限定条件が付けられています。
これを解釈すると、賃貸併用住宅の場合、賃貸用の住戸部分を全体の半分以下に抑えなくてはいけないように読めます。しかし賃貸併用住宅の場合、賃貸用の住戸をどの程度確保できるかが、収益性のキモとなります。1章の冒頭でご紹介した例のように、3階建ての賃貸併用住宅で、1階と2階を賃貸用の住戸に充てるのと1階だけを賃貸用の住戸に充てるのと、建設費はそう変わらないかもしれません。しかし、家賃収入は大きく変わってきます。家賃収入を確保するためには、自身の生活に支障のない範囲で、できるだけ賃貸用住戸の占める割合を大きくするのが鉄則です。
それにもかかわらず賃貸用住戸の占める割合を全体の半分以下に抑えないといけないとなると、収益性は大きく損なわれます。要件を満たすことを優先することで、マイホームを賃貸併用住宅にする意味がなくなってしまうのです。
居住部分を「区分所有」することで条件を満たせる
しかしご安心ください。この要件には、次のような例外規定があります。
建物を区分所有している住宅の場合は、その区分所有する部分の床面積で判断するというのです。
つまり、賃貸併用住宅の自己居住用の住戸部分を区分所有の形にすれば、その床面積でこの要件を満たしているか否かを判断するということです。
自己居住用の住戸だけに着目すれば当然、その床面積の2分の1以上が自己居住用ですから、問題はありません。そこが50平方メートル以上ありさえすれば、少なくともこの要件は満たすことができます。なお同じ併用住宅でも、自己居住用の住戸以外が事務所や店舗の場合には、こうした例外規定は適用されません。自己居住用の住戸の面積が全体の2分の1以上か否かは、あくまで建物全体の床面積で判断されます。
では、この例外規定の適用を受けるには、どうすればいいのでしょうか。自己居住用の住戸を区分所有と認めてもらうには、その部分を区分登記する必要があります。
住宅を購入した場合、その土地・建物に関する権利を第三者に主張するために不動産登記という手続きを踏みます。通常の戸建て住宅を、世帯主の用立てしたお金で購入した場合には、土地・建物の所有者として世帯主の氏名が登記されます。賃貸併用住宅の場合も、同じように世帯主の用立てしたお金で購入したなら、通常は土地・建物の所有者として世帯主の氏名が登記されます。ただ住宅ローン控除の適用を受けることを考えるのであれば、その登記手続きの時に、賃貸併用住宅全体を分譲マンションのような区分所有という形で、自己居住用の住戸を一つの独立したものとして登記すればいいのです。