今回は、高齢者住宅の構造や設備から、その介護事業者の実力が推測できる理由を見ていきます。※本連載では、介護ビジネスや高齢者住宅の経営コンサルティングも行う社会福祉士、介護支援専門員の濱田孝一氏の著書『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』(扶桑社)から一部を抜粋し、介護生活に備えた、高齢者住宅の選び方を具体的にレクチャーしていきます。

高齢者の生活・介護の質に大きく関わる「動線」の設計

要介護高齢者の生活、介護の質に大きく関わってくるのかが生活動線、介護動線です。要介護高齢者の日常生活の動きや介護スタッフの動きを考えて設計されているか否かで、介護のしやすさは変わってきます。

 

例を挙げてみましょう。

 

図表のように、A、B、2つのタイプの介護付有料老人ホームがあります。

 

[図表]どちらの配置が高齢者住宅に適している?

 

 

どちらも定員数は60人で、夜勤は介護スタッフ3名です。車椅子生活の要介護高齢者が介護を受けながら生活することをイメージしながら、どちらの建物が適しているのか、生活しやすいのかを考えて見ましょう。

 

まずは、Aタイプです。

 

5階建てで、1階に食堂や浴室が配置されており、2~5階に各15名の高齢者が生活しています。都心部など土地が狭いところは、このタイプが多いようです。

 

食事のときの生活動線、介護動線を考えてみましょう。

 

ひとりで食堂まで下りてくることのできる自立歩行の高齢者が大半で、車椅子介助の人が数人程度だと問題はありません。

 

しかし、車椅子介助の高齢者が多くなると、1日3回、食堂への移動だけで、多くの介助と時間が必要になります。特にエレベーターが1台しかない場合、エレベーターホールの前には高齢者が集まり、挟み込み事故や転倒事故も増えます。

 

夜勤の介助も大変です。4つのフロアに分かれているため、夜勤帯になると、居住階に介護スタッフがいない時間帯が多くなります。どこかで認知症の高齢者が混乱して大きな声を出したり、音がしたりしてもスタッフは気づきません。また、スタッフコールが重なると、介護スタッフは階段を使って、走り回ることになります。

 

Bタイプはどうでしょうか。

 

食堂への移動も、エレベーターを使わないためにスムーズですし、移動の介助をしなくても、ひとりで食堂まで移動し、居室に戻ることもできます。

 

また、入浴時に「下着を忘れた‼」となっても、ほかのスタッフに持ってきてもらうことができますし、「腰に見慣れない斑点があるぞ、感染性の皮膚病かもしれない」と心配な場合でも、フロアにいる看護師に確認、応援を要請することも容易です。

 

夜勤の対応も同様です。常時、各フロアに介護スタッフがいる状態にできるので、異変や急変に早期に気づくことができます。また、事故やトラブルが発生したときでも、そのフロアを2人で対応することができますし、うまく交代しながら、ゆっくりと休憩をとることもできます。

建物・設備によって事故リスクや介護の手厚さも変わる

どちらの建物のほうが、要介護高齢者の住宅として、安心した生活が得やすいか、答えは自明ですね。同じ定員数・スタッフ配置でも建物・設備によって生活の質、介護の質に大きな差が出るとは、こういうことなのです。

 

同じ介護スタッフ数でも、移動介助に時間が取れられると、それだけ入浴、排泄などの介助の時間が減っていきます。また「見守り、声かけ」といった間接介助の効率性が低下すると、事故やトラブルが増えます。

 

中には、Aタイプの介護付有料老人ホームで、80人の高齢者が6つのフロアに分かれて生活しており、夜勤者3人というところもあります。「老人ホームの介護は大変、夜勤は大変」という声をよく耳にしますが、定員数や建物・設備によって介護スタッフの動きは大きく変わってくることがわかるでしょう。それは、建物・設備によって事故リスクや介護の手厚さも変わるということです。

 

実際に高齢者住宅を見学するときには、「車椅子利用になったとき」だけでなく、「車椅子の利用者が増えたとき」をイメージしましょう。

 

「エレベーターが1つしかないし、2台しか車椅子は入らないな」

 

「食堂の出入口が狭いし、1つしかないから、出入りが大変だな」

 

「テーブルの間隔が狭く、車椅子が増えると、奥の人はどうするの?」

 

気づくことがたくさんあるはずです。つまり、建物・設備を見れば、その事業者の高齢者住宅ビジネスに対するノウハウや経験がわかってしまうということです。

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    本連載は、2017年6月10日刊行の書籍『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』(扶桑社)から抜粋したものです。稀にその後の法律、税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    濱田 孝一

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