今回は、高齢者住宅のサービスの質を「重要事項説明書」等から推測する方法を見ていきます。※本連載では、介護ビジネスや高齢者住宅の経営コンサルティングも行う社会福祉士、介護支援専門員の濱田孝一氏の著書『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』(扶桑社)から一部を抜粋し、介護生活に備えた、高齢者住宅の選び方を具体的にレクチャーしていきます。

複数事業者のサービス比較が可能な「重要事項説明書」

不動産に関わる売買・賃貸契約などにあたっては、重要事項説明書(重説)を作成し、利用者(契約者)に対して、きちんと説明することが義務付けられています。

 

同じように高齢者の住居となる有料老人ホームやサ高住でも、各事業者で重要事項説明書の作成、開示が義務付けられています。

 

アメリカなどの契約社会と比較すると、日本では「契約書」「重要事項説明書」をじっくりと読み込むという文化がありません。それだけ、騙されることの少ない、幸せな国だと言えるのかもしれませんが、高齢者住宅の重要事項説明書は「契約のため」というよりも「サービスの質」を読み解くうえで、非常に有益なものです。

 

特に重要事項説明書は、項目・様式が統一されているために、複数の事業者のサービス内容や価格帯、サービス内容を容易に比較することができます

 

介護・看護スタッフ配置についても、細かく記載されています。

 

「全体の人数・常勤換算でのスタッフ数」……適切な人員配置がされているか?

 

「夜勤の介護スタッフの数」……夜勤帯のスタッフ配置は適切か?

 

「管理者の資格・専任の有無」……管理者の資格や経験は十分か、専任・兼務か?

 

「前年度の採用者数・退職者数」……全体的に退職者は多くないか?

 

実際の見学や相談では「施設長さんは、何か資格をお持ちですか?」「辞めているスタッフは多くありませんか?」などと、直接、聞くことははばかられますが、この重要事項説明書を見れば、一目瞭然です。

 

重要事項説明書には、そのほかにも事業者の質、サービスの質を探る手がかりがたくさんあります。

 

ここまで述べてきた「どのような病院と提携しているのか」「その提携内容はどんなものか」といった医療関係の情報、「スプリンクラーや自動通報装置は設置されているか」といった防災設備の有無や建物の耐震・耐火性能、さらには現在の入居者については、「男女別」「年齢別」「要介護度別」なども細かく書かれていますから、「重度要介護高齢者の割合」もわかります。

 

加えて、「前年度の退去者数」も「死亡」「医療機関(入院)」「自宅など」など、理由別に書かれています。退去先に、「自宅」「その他」が多い場合は、「うまく適応できない人が多いのかな?」「人間関係のトラブルがあるのかな?」と疑問が湧くのは自然なことです。

 

もちろん、月額利用料の内容、入居一時金の返還方法、償却計算方法、保全方法など金銭に関ることについても、詳しく書かれています。

「聞きにくい質問」への回答で事業者の能力を判断

「高齢者住宅選びは初めての経験なので、何がわからないのか、何を聞けばいいのかわからない」という声は少なくありません。ただ、本書をここまで読んでいただいた中で、重要なポイントはご理解いただけたかと思います。そして、そのポイント・内容は、ほとんど「重要事項説明書」に書いてあります。

 

そのうえで、重要事項説明書を読んでいくと、「これどういうことかな?」「よくわからないな」とさまざまな疑問点が出てきますから、それを聞いていけばよいのです。

 

聞きにくい質問ほど、大切な質問です。また、その疑問にどのように答えるか、どのように説明するかで、プロの事業者か、素人事業者なのかがおのずと見えてくるのです。
 

[図表] 重要事項説明書から読み解くスタッフ配置

 

本連載は、2017年6月10日刊行の書籍『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』(扶桑社)から抜粋したものです。稀にその後の法律、税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「老人ホーム大倒産時代」 の備え方

「老人ホーム大倒産時代」 の備え方

濱田 孝一

扶桑社

老人ホーム・高齢者住宅の倒産件数が過去最悪を更新し続ける昨今、どのような視点で入居施設を選ぶべきなのか? 幸せな老後を送るために必ず知っておくべき基本をイチから丁寧に解説。介護業界のプロフェッショナルが明かす「60…

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