入浴設備や介助方法で「リスク管理」のレベルがわかる
入浴は高齢者にとって大きな楽しみである一方で、事故や急変など、高齢者にとって危険度の高い生活行動の一つです。介護スタッフにとっても、身体的にも精神的にも大きな負担のかかる介助項目です。
最近、「介護ロボット」の話題が増えていますが、入浴機器も大きく進化しています。入浴設備や介助方法を見ていくことで、その高齢者住宅の介護ノウハウ、さらにはその事業者のリスク管理のレベルが見えてきます。
●大浴槽では要介護高齢者は危険
特養ホームなど以前の入浴は、大浴槽が中心でした。
現在は、大浴槽でも、流れ作業のような入浴介助ではなく、マンツーマンの個別介助が増えています。ただ、大浴槽は入浴中に排泄してしまう人もいるため不衛生になりがちで、脱衣室もほかの入居者と一緒であることから、感染症のリスクも高くなります。
また浴室が広いため、歩行不安定な高齢者の両手首を持つようにして歩かせる「手引き歩行介助」を行っているところがありますが、これは非常に危険です。浴室の床で滑って転倒すると、介護スタッフは受け止めることができず、頭部を強打するか、大腿骨を骨折するからです。また浴槽が大きくなると、筋力の低下した要介護高齢者は浮力で体が浮きやすく、溺水の原因にもなっています。
●特殊機械浴槽はリラックスできない
車椅子や寝たきりなど、大浴槽での入浴が難しくなると、体を横にしたまま湯船につかる機械浴槽や、シャワーキャリーに乗ったまま入れる「チェアインバス」と呼ばれる特殊浴槽を使うのが一般的でした。
これらの特殊浴槽は、高齢者を持ち上げたり、抱えたりする必要がないため、介護スタッフの介助負担の軽減が可能です。ただ一方で、認知症高齢者が怖がって暴れ、「ベルトが外れて体が回転して溺水した」「ストレッチャーの補助バーが外れて転落した」といった事故も起きています。また、ボタン一つで入浴できるため、介護スタッフが温度確認を怠り、高温のお湯につけられ、全身やけどにより死亡する事故も発生しています。
現在は「マンツーマン」での入浴介助が主流
●個別浴槽・浴室、マンツーマンでの介助が基本
最大の問題は、この「大浴槽」か「特殊浴槽」の二者択一では、要介護状態の重度化に柔軟に対応することができないということです。
「歩行や立位ができない要介護高齢者が増えてきたけど、特殊浴槽が足りない」
「Bさんは危ないけど、仕方ないから大浴槽で対応しよう」
ということになり、介助負担や事故リスクが増えることになります。
このような経験を踏まえ、現在では通常の入浴と同じような個別浴槽、個別浴室、個別脱衣室で、マンツーマンでの入浴介助が中心となっています。
個別入浴ですから、自宅で入浴するのと同じように、それぞれの高齢者のリズムでゆったりと入浴することができます。自分のスピードで、身体をさすりながら、ゆっくりとお湯につかることもできますし、介護スタッフ自身も、高齢者とコミュニケーションを取りながら、余裕を持って介助することができます。
最近では、右麻痺・左麻痺・下肢麻痺など、それぞれの要介護状態に合わせて、浴槽をスライドさせたり、シャワーキャリーやリフトを併用することで、介助負担や事故リスクを軽減する新しい介護浴槽の開発も進んでいます。
もちろん、入浴設備は容易に変更できるものではありませんから、「大浴槽はダメ」「特殊浴槽はダメ」というものではありません。リューマチなどの疾病で関節が完全に拘縮して曲がらないなど、特殊浴槽でないと入浴できない人もいます。
ただ、老人ホームといえば「大浴槽」、要介護高齢者の入浴といえば「特殊浴槽」をイメージする人も多いのですが、入浴介助方法、入浴機器ともに、大きく進化しているのです。いずれにしても、入浴方法、入浴機器は重要なチェックポイントなのです。