事業者による離職率の「二極化」が進む介護業界
介護労働者不足は、大きな社会問題となっています。
実際、「介護スタッフが足りない」という経営者の声は多く、「不足」「やや不足」を含めると全体の事業者数の60%を超えます。
ただ、人材不足なのは、介護業界に限ったことではありません。宅配のドライバーや保育士、またコンビニ店員、飲食業、販売業なども同じです。
また、「介護業界は離職率が高い」と言われますが、全産業の労働者の1年間の離職率平均が15.5%に対して、介護労働者は16.6%とそれほど大きな開きがあるわけではありません。
しかし、介護業界の特徴は、事業者によって離職率が二極化しているということです。
介護労働安定センターの介護労働実態調査によると、介護労働者の離職率が10%未満の事業所が全体の半数に上る一方、離職率が30%以上という事業所も2割を超えます。また、その離職者のうち、約40%が働き始めてから1年以内に、35%が1年~3年以内と、離職者4人中、3人が3年以内に辞めています。
つまり、利用者・入居者だけでなく、介護スタッフにとっても、働きやすい事業所と、働きにくい事業所に二極化しているということです。
離職率の高い事業者=「サービスの質」の低い事業者
間違いなく「離職率」の高い事業者は、「サービスの質」の低い事業者です。
高齢者介護は、職種間、スタッフ間の連携が重要な「チームケア」です。そのため、スタッフの入れ替わりが激しくなるとサービスの質は安定しません。
また、現代の高齢者介護はケアマネジメントを基礎とした、高い専門性が求められるプロの仕事であり、一瞬のスキや小さな介助ミスが利用者の骨折や死亡に直結する責任の重い、リスクの高い仕事です。
しかし、離職率の高い事業者は、慢性的な人材不足となり、適切なスタッフ教育に時間を割くことができません。転倒事故や感染症などのリスクに対する教育が十分に行われないまま、介護業務、夜勤業務を行うこととなり、独りよがり、力任せの「我流の介護」、連携不足による事故やトラブルが増加します。それに嫌気がさして、やる気のある優秀なスタッフから、次々と離職することになります。
管理者も「辞められると困る」となり、介護スタッフに注意ができません。そのため、「手抜きの介護」「入居者に対する暴言」など質の低いスタッフばかりが多くなり、介護事故が増え、介護スタッフによる虐待リスクが高くなります。