今回は、高齢者住宅選びで重要となる「スタッフの適切な配置と、そこでの対応」について、3つのポイントから検証します。※本連載では、介護ビジネスや高齢者住宅の経営コンサルティングも行う社会福祉士、介護支援専門員の濱田孝一氏の著書『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』(扶桑社)から一部を抜粋し、介護生活に備えた、高齢者住宅の選び方を具体的にレクチャーしていきます。

食事介助に不可欠な「促し・声かけ・見守り」

前回の続きです。

 

介護スタッフ配置は、「全体の数」だけを見ればいいのではありません。

 

入居者全体の重度要介護高齢者の割合や建物・設備設計によっても、必要な介護スタッフ数は変化しますから、「介護スタッフ数が多い、少ない」というだけで、介護スタッフが足りているか、不足しているかはわかりません

 

大切なことは、事故やトラブルのリスクの高い場所や時間帯に、安全な介助に必要な配置が行われていることです。適切に介護スタッフが配置されているか、判断をするうえでポイントとなる3つの場面を解説します。

 

ポイント①食事の介護スタッフ配置

 

食事は、日々の生活の中で欠かせないものであり、大きな楽しみです。

 

しかし、その半面、事故の可能性が高い生活行動の一つでもあります。

 

食事介助と言えば、1人で食べられない高齢者に、介護スタッフが隣に座ってスプーンを口に運ぶ姿をイメージしますが、それだけではありません。

 

食事介助においては、「促し、声かけ、見守り」といった間接介助や、誤嚥でむせた場合などの緊急対応がとても重要なのです。

 

高齢者住宅では、こちらのほうがメインだと言ってもいいでしょう。

 

直接的な食事介助が必要ない高齢者でも、慌てて食べることで、誤嚥事故を起こすことは多いですし、脳梗塞などで麻痺のある高齢者も、窒息のリスクは高くなります。実際、特養ホーム、老健施設における重度要介護高齢者の死亡事故のうち、半数は食事中の窒息・誤嚥だと報告されています。

 

そのため、食事介助においては「直接介助+見守り・声かけ+緊急対応」が適切に行える介護スタッフ配置が必要になります。

 

最近の要介護高齢者を対象とした介護付有料老人ホームでは、入居者10~15人のユニット単位の食堂が増えています。しかし、1つのユニットに1人の介護スタッフでは、食事介助をしながら、他の人を見守るということは容易ではありません。誤嚥、窒息事故が起きたときの早期発見、初期対応も遅れます。

 

食事の直接介助が必要な高齢者の数にもよりますが、入居者が10人のユニットでも、少なくとも2人以上の介護スタッフ配置が必要です。

要介護高齢者の入浴は「目を離さない介助」が基本

ポイント②入浴の介護スタッフ配置

 

入浴も、高齢者にとって楽しみの一つです。しかし、湯につかること、血圧の昇降が大きいこと、床が滑ること、立ったり座ったりという体重移動が多いことなどから、脳出血や心筋梗塞などの急変だけでなく、転倒や溺水、熱傷などの事故リスクの高い生活行動の一つです。

 

高齢者の交通事故死が社会問題になっていますが、入浴中の急変や溺死者数は、その7倍に上ると言われています。そのリスクの大きさがわかるでしょう。

 

この入浴中の急変や溺水、転倒などの事故は、ごく短時間のうちに発生します。ですから、要介護高齢者の入浴は、「目を離さないで介助する」というのが基本です。

 

従来の入浴介助は、大浴槽が中心で、介護スタッフが「居室からの送迎担当」「脱衣・着衣担当」「浴室内の洗身担当」と分かれ、入居者は流れ作業のように入浴するスタイルが一般的でした。ただ、それでは一人ひとりのペースで入浴できないことや、ほかの高齢者の洗身中に、別の高齢者が溺れるといった事故もあることから、現在は、一人ひとりの個別浴室で、送迎から脱衣、入浴までマンツーマンで入浴介助をするという介助方法が増えています。

 

しかし、個別浴室であっても、介護付有料老人ホームの中には、介護スタッフ数が少ないために、付き添わずに浴室を巡回しながら介助しているところもあります。

 

これは非常に危険です。述べたように、転倒や溺水は一瞬のスキで発生します。また、介護スタッフが離れたのはほんの数分のつもりでも、実際は10分、20分はあっという間に過ぎていきます。

 

中には、「要介護高齢者7人の入浴に対して介護スタッフ3人」といったところもあり、「入浴中であることを忘れ、80分放置し死亡」「見にいったら特殊浴槽で浮いていた」という、信じられない悲惨な事故も発生しています。

 

入浴介助は、介護スタッフにとっても、身体的な負担の大きな介助の一つです。また、介助ミスで入居者が亡くなった場合、介護スタッフが業務上過失致死で書類送検され、刑事罰に問われるケースもあります。

 

そのため、優良な事業所ではマンツーマンで介助するだけでなく、着替えなどの忘れ物があっても、入浴介助スタッフ自身では取りにいかずに、ほかのスタッフに連絡するという方法をとっています。

要介護高齢者20人に2人以上のスタッフ配置が原則

ポイント③夜勤帯の介護スタッフ配置

 

もう一つのポイントは、夜勤配置です。

 

日勤帯と比べると、夜勤帯の介護スタッフの数は少なくなります。

 

すべての高齢者がぐっすり眠ってくれると、穏やかな夜が訪れますが、転倒事故や急変が発生したり、認知症の高齢者が混乱して起き出すと、それがほかの高齢者にも波及し、バタバタと忙しい夜になります。

 

要介護高齢者を対象としている場合、夜間の時間帯は、おおむね入居者20人に1人程度の配置を取っているところが多いようです。ただし、20人以下の小規模の事業者であっても2人以上のスタッフを配置するのが原則です。

 

夜間に急変や事故が発生した場合、1人だけでは必要な対応ができないからです。

 

この介護スタッフ配置からは、その事業者の事故やトラブルに対するリスクへの理解度が見えてきます。

 

「介護が必要になっても安心」と標榜するのであれば、安全な介助ができるだけの適切な介護スタッフ配置が行われていなければなりません。命にかかわることですから、「人が足りない」という話ではありませんし、そのリスクは入居者だけでなく、介護スタッフにも及びます。

 

つまり、「事故の多い介助場面・時間帯のスタッフ配置」を見れば、その事業者の高齢者住宅事業に対する、力量、経験、ノウハウが見えてくるのです。

 

[図表] 事故リスクの高い場所に必要な配置がされているか?

 

本連載は、2017年6月10日刊行の書籍『「老人ホーム大倒産時代」の備え方』(扶桑社)から抜粋したものです。稀にその後の法律、税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「老人ホーム大倒産時代」 の備え方

「老人ホーム大倒産時代」 の備え方

濱田 孝一

扶桑社

老人ホーム・高齢者住宅の倒産件数が過去最悪を更新し続ける昨今、どのような視点で入居施設を選ぶべきなのか? 幸せな老後を送るために必ず知っておくべき基本をイチから丁寧に解説。介護業界のプロフェッショナルが明かす「60…

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