前回は、会社運営に役立つ「制約条件理論」を学ぶ方法を紹介しました。今回は、建設会社の仕事の本質が「プロジェクト管理」にあるといえる理由を見ていきます。

様々な問題を引き起こす「一回性」のプロジェクト

C社は地方にある建設会社で、民間の大型マンションや、公共工事の学校建設などを得意としています。学校建設以外の公共工事も数多く手がけ、安定した受注を確保していました。公共工事が激減して久しく、厳しい市場環境の中、公共工事の落札ノウハウが社内のナレッジとして蓄積されており、競合が多数ひしめく中、公共工事の落札率が非常に高い会社です。

 

C社の主たる事業であるマンションの建設は、典型的な「プロジェクト」です。プロジェクトとは、「他に2つとないユニークな製品やサービスを、一定の予算内で、一定の期間内に納品する」ものを言います。この3つの要件を満たせばプロジェクトです。

 

具体的には、カスタマイズされたソフトウェアの開発、マンションの建設、社内旅行、運動会、出版などもプロジェクトに含まれます。

 

プロジェクトの特徴は「一回性」です。一回しか生産する機会がないことが特徴なので、前例が通用しない世界です。この「一回性」がプロジェクトにおいて様々な問題を引き起こします。この複雑で厄介なプロジェクトの管理にTOC理論を応用したものをCCPM(Critical Chain Project Management)といいます。

 

C社は公共工事の落札率は高いものの、工程管理はお世辞にも上手いとは言えず、杜ず撰さんな工程管理で工期が伸びるケースが散見されました。予定の工期内で完了すれば、計画段階で予定していた利益を確保できるのですが、予定の工期をオーバーする工事も毎年一定数発生し、こうした工事の大半が赤字で終わっていました。

 

台帳に基づいて多くの赤字工事を分析してみると、ある一つの特徴が見えました。それは、工事終盤に大量の人件費が発生して工事原価に賦課されているということでした。

管理が十分でなく、工事終盤に人件費が集中発生…

なぜ、こんなに工事終盤に人件費が集中的に発生しているのかを、経理担当者に確認したところ、「工事に入ってもらう外注業者の人件費などは、請求書の締めの関係で計上が遅れてきます。だから、工事の終盤には多くの人件費が集計されてくるのです」とのことでした。

 

つまりは、外注大工の人件費の工事台帳への反映は、発生基準ではなく、請求書到着基準で認識されているのです。工事の終盤に発生した人件費は、請求書が遅れてきても、工期内の人件費として計上しますから、工事の終盤に人件費が多く賦課されることになるのでしょう。

 

利益をしっかり確保できている工事についても工事台帳で確認をしました。ところが、先程の話が本当であるならば、これら利益の出ている工事についても人件費が終盤に多く賦課されるはずですが、そうはなっていなかったのです。

 

さらに工事台帳と外注大工からの請求書の中に記載されている作業年月日を集計し、工事の進捗段階における人件費の発生パターンを再度確認してみると、やはり赤字の工事については、発生基準で工事の終盤に人件費が大きく賦課されていることが判明しました。

 

各工事の現場管理者(彼らが工事原価の管理も行います)にヒアリングをしたところ、「工期内に仕上げないと、お客さんに迷惑がかかりますからね。外注大工を急にお願いするので単価が高くなるのは分かっているのですが、高くても工期内に終わらせることを優先させないといけないのです」とのことでした。

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