作業の「所要見積時間」の推定は非常に困難
建設会社の工期が伸びる原因の一つとして、プロジェクトに特有の「変動性」と「従属性」に対する理解不足が挙げられます。
「変動性」とは各人の担当するタスク(作業)の所要時間にばらつきがあることを言います。タスクは、定型的タスクと非定型的タスクの2種類に分けられます。定型的タスクの場合には、このばらつきは一定範囲内に収まります。例えば、人事部が行う毎月の給与計算の作業時間は、毎月それほど変動するわけではありません。
ところが、非定型的タスクの場合には、今までそのタスクを担当した経験がないため、どれだけ時間がかかるのかやってみないと分からないことから、タスクの所要時間を見積もることができません。プロジェクトは定義通り「一回性」がその本質ですから、プロジェクト全体を構成する各タスクの所要見積時間を決定することはとても困難なのです。
以下の図表の2つの分布図のうち、上は定型的タスクの典型である毎月の給与計算の例です。毎月の給与計算は60分で終わる確率が最も高くて、59分で終わる確率、もしくは61分で終わる確率は大きく低下しています。
60分以内で終わる確率が50%、終わらない確率が50%という言い方もできますが、言い換えると、59~61分でほぼ間違いなくその業務は毎月終了するということです。このような定型的な業務は事前に見積時間の予測は容易です。
[図表]給与計算と建設作業の分布
経験で得た「感覚的な理解」を言葉にして共有
逆に、下は非定型タスクの典型である建設作業の例です。先ほどの例のような左右対称の正規分布とはならず、ベータ分布、ロングテールの形状をなしており、右へいくら進んでも、確率はゼロにはなりません。つまり、最大どれくらいの時間がかかるのかを見積もることができないのです。
基本的に建築物には同じものは2つとありませんが、個々のタスクにブレイクダウンしたレベルでは、タスクによっては以前に実施したことがあるようなものも多く存在します。そのようなタスクについては「変動性」のリスク(見積作業期間の振れ幅)は小さくなります。
また、建設工事の場合には、タスクを実施する場所にも大きく影響されます。隣接する道路が狭いため搬入用のトラックが入らないということや、鉄筋と鉄筋の間が狭くてコンクリートが入らないなど、枚挙に暇がありません。
このようにタスク自体には過去に実施した経験があったとしても、そのタスクを実施する環境まで考慮すると、ほとんどが「一回性」の特徴を持つタスクになり、変動性はやはり高くなってしまうのです。
また、「従属性」とはタスク間の繋がりのことを言います。時間的に前に位置するタスクが終了しないと次のタスクが開始できない、つまり、後工程は前工程に支配される関係にあることを意味しています。
例えば、10のタスクがあって、各々のタスクが計画期間内に終わる確率を50%とし、全てのタスクが直列であるとすると、最初から3つのタスクが計画期間内に終わる確率は12.5%です。10のタスクが全て計画期間内に終わる確率は、なんと0.098%しかありません。
「変動性」や「従属性」という言葉とその意味を建設会社のスタッフが理解していないとしても、「やったことがないタスクの所要時間の見積もりは困難である」ということは経験的に理解しています。また、「このタスクは、あの仕事が終わらないと着手できないな」ということも経験的に理解しています。
しかし、このようなことを感覚的に理解していたとしても、言葉になっていない状態では管理などできません。言葉にして初めて意識するようになり、管理するという行動に繋がるのです。
ビジネスにおいては、このように「何となくを言葉にする」ことがとても大事なのです。