多様化するライフスタイルにより「入居需要」は増加
この章では、アパートとワンルームマンションを比較して「①財産評価を下げやすいのは?」「②収益性を確保しやすいのは?」「③物件の流動性が高いのは?」といったテーマで書き進めて参りました。財産評価を下げやすいというところは別ですが、収益性と流動性を高めるために重要なのが「需要」と「供給」です。
「需要」と「供給」が価格に及ぼすという影響は、下図のようになります。
[図表]
まず、収益性の面で、地方のアパートと都心のワンルームマンションについて比較してみましょう。
収益性の面で重要なのは家賃です。現在では、アパートの空室率が急上昇しています。その原因は、相続税対策により貸家の建設が増え、供給過多になっているからです。アパートの供給が増えているのに、入居需要が増えなければ確実に家賃は下がります。
一方で、ワンルームマンションの場合であれば、ワンルームマンション規制の影響で供給は制限されているなか、地方や海外から都心へ人の流れも増え、多様化するライフスタイルの影響でワンルームマンションに住む期間も延びているため、入居需要は増えているのです。そういう流れの場合には、家賃は上昇するでしょう。仮に上がらなくても同じ家賃が長い間維持できれば収益性は保たれるのです。
供給過剰の心配も少なく、価値の上昇も期待
また、売却という局面を考えてみても、地方のアパートと都心のワンルームマンションでは、明確な違いがあります。地方のアパートは、金融庁の検査・監督により、今後は金融機関の融資が締め付けられるため、購買層いわゆる購入できる人は少なくなり購入需要が減少傾向に向かうのです。
一方で、相続税対策のためにアパートを建築した人は、売却も目的の1つなので、売却される物件の総数が増えるため、そのエリアにおける売り物件つまり供給も増えるでしょう。そういった環境下では、売却価格は下がる傾向になります。しかし、都心のワンルームマンションであれば、相続税対策や老後破産を防ぐといった目的はこれからも増えるでしょうし、サラリーマンであればほとんどの人が融資を受けられるため、購入需要は一定数確保されます。
ワンルームマンションであれば、金額も他の不動産に比べ価格が抑えられているので、現金で購入する人も購入しやすい物件です。しかも、新築ワンルームマンションの供給が抑えられているため、市場に魅力的なマンションが供給過剰になることもありません。魅力的なマンションが少ないのであれば、今、好立地で所有しているマンションの価値は上昇します。このように「需要」と「供給」を入居者確保の観点と売却の観点で見た場合、どの物件を購入すれば売却しやすいかは一目瞭然です。
これから、相続税対策を検討する人は、先々の収益性や売却まで見通した上で、どこのエリアにどのような種類の物件を購入するかを真剣に検討しなければ、相続税対策において後悔することになりかねません。相続税対策は、相続税評価額を下げることだけを考えると失敗するという大きな理由は、ここにあります。