外形的な施策では「本質的なブランド構築」はできない
最近、新聞報道等でも地域ブランドという言葉がよく取りあげられています。一般的に地域ブランドは、地域から生み出される一次産品や二次産品(一次産品の加工品)、もしくは地域で培われた技術による製品等を示します。松坂牛、琉球茶碗等を想像すると分かりやすいでしょう。
これまでの連載において、企業ブランドとは構築するのに時間がかかり、構築されたブランドも環境の変化に応じて育成する必要があることを述べました。この地域ブランドについても、企業ブランドと同様のことがいえます。現在、地域ブランドの構築にあたって商標登録の制度や行政による補助金制度等が行われていますが、このような外形的な施策に依存するだけでは十分ではありません。本質的なブランド構築には、地域に存在する個々の企業がブランドの育成に取り組む必要があります。
地域企業の後継者の主体的行動に対する指針に
各地域ブランドによって顧客への浸透度合いが異なりますが、地域ブランドの育成にはいくつかの方法が考えられます。
第一に、製品分野からの取り組みです。伝統技術の保存と伝承、製造工程の改良等によるものです。
第二に、流通経路の分野からの取り組みがあげられます。地域ブランド製品の取扱い流通業者の選定と開拓(見直しを含む)等があげられます。
最後に、販売促進の観点からの取り組みです。具体的には、百貨店における物産展の開催、地域ブランドの広告等の方法が考えられます。
このように、地域ブランドについても、企業や製品のブランド育成と同様に、地域ブランドのファンとなる顧客を創造して維持していかねばならないのです。多くの地域企業では、世代から世代への事業承継を通じて原材料や技術を依存してきました。実は、地域ブランドの育成における取り組みが、地域企業の後継者による主体的行動に対する指針となっている可能性があるのです。これまでの連載でも述べてきた通り、企業の長期的な存続のためには、伝統の継承と経営の革新が必要です。
他方、先代経営者は後継者に伝統継承について指南はできても、経営革新の方法について指南することは容易なことではありません。既存の事業や製品が成熟化する中で、地域企業の後継者は、新しい感性で事業機会を掴まねばなりません。その意味で、地域ブランド育成の取り組みは、新製品開発や新市場開拓等の革新的行動に繋がるヒントを後継者に与えてくれるのです。
社内外の各種関係の維持・活性化という役割も
地域ブランドの育成の取り組みは、後継者の主体的行動に対する指針を与えるだけではありません。地域企業同士の取引関係を維持し活性化してくれる役割があります。
例えば、地域の佃煮製造業があるとしましょう。この企業は、同じ地域に存在する一次産品(貝や小魚等)を取り扱う企業から仕入れを行います。また、佃煮製品を出荷して、地域の流通業者に販売を行います。地域ブランドとは、川上から川下にかけてのサプライチェーン全体で構築される資産です。いわば、地域ブランドを育成する試みは、サプライチェーン間の取引関係をより強固なものにしてくれる可能性があるのです。
事業承継における大きな課題の一つに、社外の利害関係者との取引関係にかかわる承継があります。特に、売上高や利益の源泉となる仕入先や顧客との関係が上手に先代経営者から後継者に引き継がれないと、地域企業の事業存続に悪い影響を与えてしまいます。地域企業は、事業承継を通じて地域ブランドの育成を図り、また地域ブランドの育成を通じて社内外の利害関係者との円滑な事業承継に取り組んでいるといえるかもしれません。
<参考文献>
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.
落合康裕(2016)「中小企業の事業承継と企業変革:老舗企業の承継事例から学ぶ」中部産業連盟機関誌『プログレス 2016年11月号』, pp. 9-14.