前回は、病院経営を苦しめる「治療の未収金」の現状を取り上げました。今回は、医療機関の経営にも多大なダメージを与える「医療事故」の実態を見ていきます。

医療事故の背景には、医師不足や長時間勤務等の影響も

医療事故は患者の命を危険にさらすだけではありません。当事者である医療機関の経営にも多大なダメージを与えます。医師不足や看護師不足による長時間勤務、ハイリスクな産科や外科を敬遠する若手医師の増加といった背景には、こうした相次ぐ医療事故の影響もあるのです。

 

最近では腹腔鏡手術に伴う医療事故が世間の注目を集めました。千葉県がんセンターで2008年から2014年の間に腹腔鏡手術を受けた患者11名が、群馬大学病院でも2010年から2014年の間に8名が死亡する事故が起きています。千葉県がんセンターでは、2015年にも違う患者の乳房を全摘出する医療ミスを起こしています。この他にも、投薬ミスや手術患者の取り違えなど、重大な事故は全国の病院で立て続けに起こっています。

事故の原因を究明し、教訓にすることが不可欠

明らかな過失が認められるケースはともかく、人間が携わる以上は医療事故をゼロにすることは不可能ですし、予見が困難なケースも確かにあります。それだけに、医療従事者には事故を限りなくゼロに近づけるための自覚と努力が常に求められます。

 

不幸にして起こってしまった医療事故の原因を究明し、二度と繰り返さないための教訓にすることが不可欠です。確認不足が原因であれば、確認の徹底にはどうすべきかを検証し、背景に医師、看護師の業務過多があるのなら、業務負担の軽減策を話し合うべきです。

 

2007年の医療法改定により、病院に医療安全管理者を専任で設置する義務が制度化されたことで、事故報告や「ヒヤリハット」報告等が共有されて事故の発生は減少しつつありますが、この問題も医療費削減や人手不足と切り離して考えることはできません。

本連載は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

病院崩壊

病院崩壊

吉田 静雄

幻冬舎メディアコンサルティング

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