ブランド価値=利害関係者からの信用蓄積の賜物
ブランドは、見えざる資産と呼ばれ、製品の品質、機能、デザイン等における究極の競合企業との差別化のことを示します。加えて、ブランドは自社内部で蓄積できるものではなく、顧客等の外部の利害関係者において蓄積される性質があります。
その意味では、現代に続いてきた伝統的製品や製品群は、老舗企業が長い時間をかけて築き上げてきた利害関係者からの信用蓄積の賜物であり、ブランド価値を有しているといえるでしょう。
次に、このブランドの機能と効果について確認しておくことにしましょう。
ブランドが持つ「三つの機能」とは?
石井淳蔵・栗木契ほか(2004)によると、ブランドには、識別機能、保証機能、想起機能があるとされています。
第一の識別機能とは、他社製品と自社製品との比較において品質やデザイン上の差異が強調されることです。
第二の保証機能とは、製品における品質や機能の良さ、デザインの秀逸さが保証されることを示します。
第三の想起機能とは、ブランドが顧客に製品に対する感情やイメージを想起させることを示します。例えば、虎屋の羊羹、須藤本家のお酒などをイメージするとわかりやすいでしょう。
このブランドには、いくつかの効果が考えられます。例えば、ブランド価値を有する製品の場合、顧客が当該製品に一定の価格プレミアムを支払うことから、価格競争に巻き込まれにくいことが上げられます。それだけではありません。顧客の購買意思決定においてブランドを選好したり固執したりする傾向があることから、ブランド価値を有する製品は、企業にとって安定的な収益を上げられる源泉となる可能性があります。
経営環境の変化に応じた自社ブランドの育成が重要
ブランドは、構築できれば企業の持続的な競争優位性に繋げることができます。老舗企業の後継者は、先代世代が構築したブランドを活用することができるメリットがあるといえるでしょう。
他方、今ブランド価値があるからといっても、後継者世代がブランドに対して何の投資も行わないということでは、問題があります。伝統的製品として歴史や名声はある一方、製品としての品質や機能、デザインが陳腐化している場合は競争優位性を失ってしまうでしょう。後継者は先代世代の築き上げたブランド価値に依存するだけではなく、経営環境の変化に応じた自社ブランドを育んでいかねばならないのです。
福島県の大和川酒造店では、七代目以降、喜多方の米と水による本物志向の酒造りという理念のもとに取り組んできました。先代の九代目は、主要ブランド「彌右衛門」をつくります。現在、「彌右衛門」ブランドは、大吟醸、純米酒等の複数の商品カテゴリーをもつにいたっています。日本国内だけではなく海外にも新たな販路が開拓され、「彌右衛門」ブランドの普及がなされています。
九代目や九代目からバトンを受けた後継者は、「彌右衛門」ブランドを継承しつつ、本ブランドのもと様々な新製品の開発や新市場の開拓等を行っているのです。その結果、「彌右衛門」ブランドは、全国新酒鑑評会において七年連続して金賞を受賞しているブランドとなりました。事業承継を通じて喜多方の米と水にこだわり続けた本物志向の酒造りが、製法や品質の確かさとして顧客に受け入れられた結果といえるでしょう。七年連続の金賞受賞からもわかるように、「彌右衛門」ブランドが地酒業界における確固たる地位を築いたといえます。
このように、老舗企業では、後継者が先代世代によって築き上げられたブランド資産を活用するだけではなく、後継者自らが時代に応じた形でブランドを育んでいることがわかります。ブランドの構築には相当程度の時間がかかるものであるからこそ、我々は数世代にわたって事業承継されてきた老舗企業に学ぶことが多いといえるでしょう。
<参考文献>
石井淳蔵・栗木契・嶋口充輝・余田拓郎(2004)『ゼミナール マーケティング入門』日本経済新聞社.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.